小林琢磨氏(写真:保田敬介)

新生「オルビス」衰退危機を乗り越えた組織改革の舞台裏

変革の仕掛人が明かす

インバウンド需要の押し上げもあり、日本の化粧品業界は活況を呈している。中でも国内市場の8割を占めるのが“4強”の化粧品メーカーだ。資生堂、花王、コーセー、ポーラ・オルビスホールディングス(以下、ポーラ・オルビスHD)の4社が磐石の地位を築いている。

安定した市場で攻勢をかけるのが、4社の中では売上高で最後尾につけているポーラ・オルビスHD。なかでも組織改革とリブランディングを掲げ動き出したのは、基幹ブランドORBIS(オルビス)。2018年10月にリニューアルした「オルビス ユー」が爆発的なヒットを飛ばしている。

このヒットは“まぐれ当たり”ではない。裏側には「衰退期を迎えたブランドの危機感」「縦割り化した組織」など、多くの日本企業が直面する課題との戦いがあった。

いかにしてオルビスは「変わった」のか。変革の仕掛け人、小林琢磨代表取締役社長に話を聞いた。

それまで見失っていたもの

2018年10月23日にリニューアルした『ORBIS U(オルビスユー)』シリーズは、発売からわずか2カ月で異例の販売累計67万個を突破し、業界の注目を集めるヒット商品となっている。

その仕掛け人が、2018年1月1日にオルビスの代表取締役社長に就任した小林琢磨氏だ。

小林氏は2002年にポーラ化粧品本舗(現ポーラ)へ入社し、2010年にDECENCIA(ディセンシア)社長へ就任。敏感肌ケアに特化したブランドDECENCIAの売上を大きく伸長させた。その手腕を買われ、2017年1月にオルビスへ異動し、取締役兼商品・通販事業担当に着任した。

小林琢磨氏

2017年当時、オルビスが置かれていた状況を、小林氏はこう振り返る。

「1990年代後半から2000年代のデフレ時代にかけ、『低価格で、本当に肌に必要なものだけを通信販売で届ける』というシンプルなコンセプトは爆発的に支持されました。その後に急拡大する通販化粧品市場における先行者メリットの享受も相まって、大きく売上を伸ばしてきたのです。

けれども2000年代半ばから長い成熟期に入り、他の通信販売ブランドやナチュラルオーガニックブランドが広がりを見せる中、オルビスの存在感が薄れてきてしまった。売上を維持するために、既存顧客への販売商品カテゴリの拡充やキャンペーンの多発など、顧客一人当たりの年間購入単価をいかに上げるかという“内向き”な方針にシフトしていきました。その結果、市場の変化への対応も遅れ、自らの『本質的なアイデンティティ』を見失ってしまったのです」

自らアイデンティティを薄めたことにより、市場における存在感は輪をかけて薄まっていった。

 

「通販会社」ではAmazonに勝てない

中期経営計画のプロジェクトチームを結成した小林氏は、社員とのミーティングを重ねる中で、事業ドメインへの理解がブレていることに危機感を募らせる。

「面談で『うちは何の会社だと思いますか』と必ず尋ねることにしていたのですが、いくつか回答がある中で『通販事業会社です』という答えがもっとも多かったのです。

けれども、既に世の中はAmazon、楽天、ZOZOなど数々のECプラットフォームが消費者にとってのインフラとなってきている中で、僕らが到底かなうはずもない。我々の本質的な価値を捉え直し、事業ドメインを『スキンケアを中心としたビューティブランド』と認知することが不可欠だと考えたのです」

そこで小林氏が目をつけたのは、新生オルビスの「顔」となりうるブランド、「ORBIS U(オルビスユー)」だった。オルビスユーは2014年にスタートしたエイジングケアブランドで、安定した売上を獲得していた。その根底にあるのは「スマートエイジング」という考え方だ。

「新生オルビスとして何を残したかったのか。その最たるものが『スマートエイジング』だったんです。化粧品の多くは、『シミ・シワを薄くしたい』『ハリを出したい』というアンチエイジングに基づいている。起こってしまった事象に対して、どう対処するのか、というアプローチです。けれども『スマートエイジング』は、人が本来持つ強さ・美しさを最大限に引き出すエイジングケア。それを体現するオルビスユーに、我々の“マインド”を背負わせることを決めました」

そもそも、1987年に創業したオルビスは、当時から絶対的なポジションを獲得していた資生堂、花王、コーセー、そして親会社のポーラに対する「アンチテーゼ」によって生まれた。バブルの好景気に沸く日本。化粧品においても当然、見た目も中身も、価格すらも豪華絢爛になる中で、あえて質朴さを打ち出した。

さらには、顧客と密接な関係性を築く訪問販売と高価格帯のエイジングケアに特化していたPOLAブランドの真逆を行く「通信販売・中低価格帯・100%オイルフリー」をコンセプトに据えたのだ。結果、バブル崩壊後、消費が一気に冷え込んだにもかかわらず、異例の急成長を遂げた。

「はじめは“逆張り”で始まったことかもしれませんが、そこで生まれたイノベーションによって、多くの方のニーズに応え、一人ひとり本来の美しさを引き出すきっかけを提供することができたのです。それから30年を経て、オルビスにも守るべきものが多くなり、いつしかリベラルなベンチャーマインドを忘れてしまっていた。今こそそれを取り戻し、『オルビスの本質的な価値はこれだ』と、オルビスユーを象徴として市場でのプレゼンスを獲得しようと考えたのです」