あるDV被害者の告白「殺されないと事件にならないと言われて…」

なぜDV男と「復縁・再婚」するのか
井戸 まさえ プロフィール

妊娠、出産、産褥期のDVとマインドコントロール

心愛さんへの父親の暴力に対して、止めに入るとより激しくなるというのもDVではよくあるパターンである。

前述のもうひとつの質問「母親なら自分の命をかけてでも子どもの命は守るべき」への答えで言えば、母親は何度も子どもを守ろうとし、失敗し、その度に無力感に苛まれるような状況に追い込まれていたと思える。

DV夫が子どもをダシに妻への執着を見せるケースは多い。

たとえば婚姻中はほぼ育児に関心を寄せなかったにも関わらず離婚後「子どもに会いたい」と面会交流に対してやたら積極的になるDV前夫。それは子どもへの愛情に見せかけて、実は前妻への執着だったりする。子どもは母親の分身である。母親にとっては自分が叩かれるのをみるよりも辛い。

しかし、それは正常な判断ができる時であり、心愛さんの母のように、妊娠、出産後、心身ともに疲弊した状況の中ではもはやそうした判断能力がなくなっていたことは想像に難くない。DV夫に抵抗できなる気力など全く残っていない。

「娘が叩かれれば、自分は叩かれないですむと思った」というのは、当時母親がどれほど深刻な状況にあったかを逆に示す言葉でもある。

 

DV夫が卑劣なのは、最も弱い子どもに対して最も激しい暴力を加え、そしてその虐待を見せることで妻をも共犯者にしていく。

私は今回のケースも含め「母親も悪い」という言説に与することはしない。それは、まさにDV夫が仕組んだ罠に陥ることになる。

世間が「母親なら命がけで子どもを守るはず」と母親批判をすることをDV夫はわかっている。

夫は「父親なら命がけで子どもを守るはず」と言わないことは重々承知で、事件が発覚したあとも母親に対して相当の傷つきを世間が与えることも含めて、全て織り込み済みなのだ。

〔PHOTO〕iStock

子連れ再婚のリスク

心愛さんのような実父と、もしくは目黒区の児童虐待事件の結愛さんのような異父との場合も、母親の「子連れ再婚」にはDVの危険性が高いと言われる。

私自身も「子連れ再婚組」だし、もちろん上手く行っているケースをたくさん知っている。経済的にも負担となるであろう、また精神的にも苦労はあるだろう「子連れ再婚」で、愛情をつむぎながら新たな家族を形成している人々には尊敬の念も持つ。

しかし、そううまく行くケースばかりではないことも、特に「離婚後300日問題」の相談を受けていると感じるところでもある。

子連れで再婚する女性は、それを受け入れてくれた夫に対して少なからずの負い目を持っている。最初から圧倒的に男性優位の力関係の中で暴力が培養、拡大されて行くのだ。

こうしたカップルの場合、男性側は社会で抑圧されているケースが往々にしてある。自分より弱い立場の人を寄せるのである。

結婚前は言葉巧みに自分がいかに凄いかを吹聴して、婚姻。そして妻の自分への忠誠を確認するかのように連れ子への虐待を始める。前述通り、妻が妊娠すればさらにDV環境は整う。これは心愛さんのケースも同様だったと思う。

実際には言葉ほどには仕事がうまくいかない等、婚姻時の話とは違って、DV夫は転職を繰り返すようになる。失業状況にいたれば、さらに自分の優位性、強さを可視化しなければやっていけない。

しかしそんな夫と妻は離れる選択をしない。なにしろDV夫に限って言葉巧みである。苦しい状況にあればあるほど、妻はマインドコントロールされていく。そのベースには過酷なシングルマザーだった体験がある。もし、母親たちが子連れで離婚したあとに、安心して暮らせる状況が確保されていたら、違う生き方をしている人も多いのではないか。

彼女たちに選択肢はないのである。