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胆管がん「余命6ヵ月宣告」から生還した患者とその主治医の全告白

トップドクターはこうして命を救った
木野 活明 プロフィール

「この世に戻ってきたんだ。助かった」と

がんの進行程度を示す病気(ステージ)はがんの発生する部位により判断基準は変わるが、桑原さんの肝門部胆管がんのステージはこうなる。

0期 がんが上皮内にとどまっている。
Ⅰ期 がんが胆管の中だけに留まっている。
ⅢA期 がんのある胆管のそばの門脈、または肝動脈に浸潤がある。
ⅢB期 がんに関係するリンパ節に転移があるが、遠隔転移がない。さらにがんの浸潤範囲がⅢA期までと同様。
ⅣA期 がんと関係するリンパ節への転移の有無に関わらず、遠隔転移がなく、両側肝内胆管の二次分岐まで浸潤。さらに門脈本管や周辺肝動脈に浸潤がある。
ⅣB期 がんの浸潤およびがんと関係するリンパ節転移に関わらず遠隔転移がある。

手術はステージⅢBまでが適応となる。ステージⅣは遠隔転移があり、通常適応外だが、化学療法が奏功した場合は手術となる場合がある。手術はすべて外科手術となる。

「胆管がんは非常に浸潤性の高いがんで、胆管は体の奥にあり、すぐそばに動脈や非常に多くの細い血管が通っているため、血管を切らずいかに安全に手術ができるかが勝負です。

そのためにがんが局所に留まり遠隔転移がないことが手術の条件になります。桑原さんの上下部胆管がんはステージⅡでしたが、胆管、すい臓、十二指腸、さらに肝臓の3分の2まで切除する超難関のHPD手術を行いました」(齋浦医師)

桑原さんの受けたHPD手術は、肝臓、膵頭(すい臓の右半分)、十二指腸とを一括して切除する手術。日本肝胆膵学会から1年間に50例以上の高難度の肝胆膵外科手術の実績を持つ、「肝胆膵外科高度技能施設A」の指定を受けた、国内でも数少ないハイボリュームセンターで行われる手術だ。

「HPD手術は手技が難しいだけではなく、手術の行程も多いのでミスが許されません。手術後に肝不全、出血感染、膵液漏れといった合併症による手術後の死亡率は10%と高い。症例数も少なく、非常にリスクの高い手術のため手術をやる施設も限られているんです」(齋浦医師)

 

桑原さんの手術はまず、腫瘍の切除をする準備のために「門脈塞栓術」を行った。齋浦医師が説明する。

「この手術の最大の欠点は肝臓の3分の2を切除する拡大肝切除でした。術後に残した肝臓が3分の1になると肝不全が起きるリスクが高くなるため、残す肝臓の門脈血流を増やし肝臓を太らせるのが門脈塞栓術です。

肝臓の大きさは門脈血流で決まるので、切除する右側の肝臓の門脈血流を遮断すれば左側の肝臓は大きくなる。肝臓は再生能力が旺盛で、門脈塞栓術を行って1カ月後には残った肝臓はほぼ20%大きくなる。桑原さんの場合300グラムだった肝臓は400グラムになっていました。門脈塞栓術はがんを切除する本番の手術に入る前の肝臓を太らせる手術なんです」

2013年6月末、HPD手術に入る前のカンファレンスで桑原さん夫妻は齋浦医師からこう説明を受けた。

「これまでの全国のデータでも術後の合併症で10%の方が亡くなっています。手術ができても9割は危ないという非常に難しい大手術です。しかし、手術が長時間に及んだら安心してください」

9時に始まった手術は夜の21時になってもまだ続けられ、終了したのは22時を回っていた。まさに13時間にも及ぶ大手術だったのである。桑原さんの目が覚めたのは翌朝5時だった。

「気が付き周りを見て病院のベッドにいるのが分かりました。この世に戻ってきた、助かったんだと思うと家族の顔が浮かんで目頭が熱くなりました」(桑原さん)