避妊はダメだが中絶は良い日本

日本で女性避妊が一般的ではないことの理由にはもう一つ、ピルの認可が遅かったことが挙げられる。日本での認可は1999年、フランスとは実に32年の開きがある。

さらに現在でも日本では、ピルを避妊目的で用いる場合、保険適用されず全額自己負担となる(生理痛の軽減の場合などは保険適用される)。その意味では、制度的にも、妊娠・出産に関する「女性の自己決定」の範囲が小さく設定されていると言える。

そしてフランスとは逆に、日本では中絶の合法化がとても早かった。ピルに先駆けること60年の1948年、優生保護法で実質合法化が為されている。この合法化を推進したのは、男性産婦人科医かつ政治家の谷口弥三郎だったが、フェミニストや婦人団体などの女性運動は、ほとんど関わっていなかったそうだ。

なぜ戦後すぐ、男性主導の中絶合法化が進められたのか。「女性避妊はダメだが中絶はよろしい」という意思は、どのように制度化されたのか。その過程を追うことは、私にはとても苦しかった。正直言って、ここで紹介することからも逃げたい。ご興味のある方はご自身で調べていただくこととして、私からは、現代日本の中絶をめぐる事実だけを挙げたい。

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平成29年の厚労省「衛生行政報告・母体保護関係」によると、日本全国の届け出中絶数は16万4621件。15〜49歳女性人口の6.4%にあたり、そこに入らない14歳以下では、1年間で218件の施術があった。15歳〜19歳では合計1万3913件の中絶が報告されている。

中絶費用は全額自己負担が原則で、流産処置など医学的に必要と判断された場合のみ、医療保険対象で自己負担3割となる。中絶のための薬はアフターピル「ノルレボ」一種類のみ輸入・製造販売が承認されているが、現時点での価格は1回分1万5000円前後。妊娠中断薬は未承認で、前述の数字はほぼ外科手術によるものだ。

中絶の外科手術は妊娠22週まで受けられ、初期12週までは胎児を吸引もしくは器具で掻き出す。12週〜22週までは人工的に陣痛を起こし出産、死産として扱う。その場合の麻酔対応は少なく、激しい陣痛を伴ってしまう。女性の身体への負担から、WHO(世界保健機関)は薬学的中絶を推進している。が、日本ではまだ、それは不可能だ。

なぜなら日本の刑法には、堕胎を犯罪とする「堕胎罪」がある。中絶を合法とする母体保護法(1996年に優生保護法より改名)で適用範囲が縮小されてはいるが、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、1年以下の懲役に処せられる」という212条は今も、六法全書に記載されている。この堕胎罪は、1880年に制定されたものだ。

女性避妊と「男の責任」

「妊娠は女性の体にしか起こらない。しかしそれをコントロールしているのは男性である」

事実やデータだけを並べて見ると、日本の状況はこのように言える。改めてそれを認識したとき、私は二種類の思いを抱いた。

「どうして」と、「運が良かった」だ。

どうして私は、自分で避妊しようと考えたことがなかったのだろう。答えは単純明快で、それは「男の責任」だと信じて疑っていなかったからだ。私が10代20代の頃、女が避妊を考えるのは「はしたないこと」だった。

あえて被害者的な書き方をするが、学校でも社会でも家庭でも、避妊は女性がするものだと教わったことはない。「避妊は女性を守るもの」なんて、あの30の年のパリでの出来事(前回の記事を参照)まで、誰からも、言われたことがなかったのだ。