野球はいつから球児にとって「苦しいだけのスポーツ」になったのか

筒香嘉智が「勝利至上主義」を問う
筒香 嘉智 プロフィール

―中学時代に所属していた名門少年野球チーム、堺ビッグボーイズの先進的な取り組みも紹介されています。

かつては、ビッグボーイズも他の多くのチームと同じようにスパルタ式の指導をしていました。でも、指導者として世界大会の舞台にも立ったチーム代表の瀬野竜之介さんが大改革に乗り出し、練習時間や内容を抜本的に見直したのです。

肉体が完成されていない小中学生の場合、過剰な運動で疲労が蓄積されるとダメージが大きい。子供たちの体力や個性に合わせて練習をカスタマイズするビッグボーイズの取り組みは、これからの日本の少年野球のモデルケースになるのではと感じています。

野球は本来、たのしいもの

僕自身の経験からしても共感する部分が非常に多いので、2年前からはビッグボーイズの小学生部門である「チーム・アグレシーボ」の野球体験会に参加させてもらっています。今年は1月の半ばに練習の体験会をやりました。約80人の幼児や小学生が保護者と参加してくれました。この輪がどんどん大きくなってほしいと願っています。

―本書には、筒香さんが野球をはじめてから、一流のバッターになるまでの歩みも書かれており、自伝としても読みごたえがあります。自らの経験について詳細に書かれた理由はなんですか。

最初は、僕自身のことを語ろうと思ったわけではありませんでした。でも、小学2年生からいままでずっと野球を続けてきた経験を通して感じたことを率直に伝えれば、読者の方に今の日本の少年野球の問題をより掘り下げて考えていただくことができるのではないかと思うようになりました。

 

―'15年のキャンプでバッティングに悩んでいた時、松井秀喜さんからアドバイスを受けるシーンは非常に印象的です。

僕は、逆方向に強い打球が打てるようになりたいと思いながら、周りからは「遠くに飛ばしたいなら前で打て」とずっと言われ続けてきました。

でも、キャンプの視察に来ていた松井さんにご相談すると、「誰になんと言われようとも、逆方向に意識を持って打つことは間違っていない。自分の思っていることをやり続けるべきだよ」と言っていただけた。

あの瞬間、自分の中の迷いが消えました。いまでは、逆方向にきっちりと打つ意識を持って練習に取り組んでいます。おかげで、変化球に対しても、泳がずに打てるようになりました。

あれは、試合中にとっさにやろうと思ってもできるものではありません。「意識的」に練習を積み重ねていくからこそ、いざ試合になった時に「無意識」に反応することができます。

指導者に言われるままにやるのではなく、自分の頭で考えて練習を積み重ねる。これは、本書のテーマにも通じることだと感じています。

野球は本来楽しいものです。苦しいものではありません。子供たちが心から野球を楽しめる環境を作るために、自分にできることを続けていきたい。そう思っています。(取材・文/鎮勝也)

『週刊現代』2019年3月2日号より

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