20年以上もヤクザを追ってきたライターが見た「裏社会のリアル」

鈴木智彦のわが人生最高の10冊
鈴木 智彦 プロフィール

衝撃だったある写真集

「安藤組」に関する本としては組長・安藤昇の自伝『やくざと抗争』が出色です。安藤は大学時代に愚連隊を結成後、会社を興し、既存の暴力団を薙ぎ払って時代の寵児となった。どれほどカッコよかったか、この本が過不足なく語ってくれます。

普通、ヤクザの自伝って、見栄の張りすぎ、気取りすぎで、良いものにならない。でも、安藤だけは違いました。真に強い人はさっぱりしていて、ゆえに最後は潔く退くんだと思いますね。弱い人間のほうがねちねちと諦めが悪いのではないでしょうか。

安藤昇は'64年に組をあっさり解散し、俳優に転身します。その理由を聞かれた時の答えもいい。「金がなかったから」。嘘のない人でした。

ヤクザを取材して20年以上になりますが、元々私が目指していたのは報道カメラマンでした。何を撮りたかったかといえば、戦争です。

大学を辞め、雑誌や広告のカメラマンとして世界を飛び回り、ヤクザ雑誌に入ってからもカメラマンに戻るつもりでいたのですが、ある写真集を見て、自分には無理だと悟った。それが『レクイエム』です。

 

これはベトナム戦争で亡くなった135人のカメラマンの作品を生還した仲間たちが編集した遺作集です。写真と、添えられた文章も素晴らしい。衝撃だったのが女性カメラマン、ディッキー・チャペルが地雷を踏んで亡くなる瞬間を大好きな写真家、アンリ・ユエが撮った写真です。

悲劇的ですが、あまりにも美しい写真で、これほどのものを撮れるだろうか、また、自分の死をも題材にする覚悟があるだろうかと自問自答し、できないと思い至りました。

そういうわけで、ライターの仕事を続けています。長くヤクザ取材をしていると、ヤクザを追いかける意義は何だろうと常に悩みます。その支えになった本が2冊あります。

一冊は『俘虜記』です。大岡昇平の従軍体験を基にした小説ですが、フィクションには思えず、ノンフィクションとして読みました。

この作品のなかで「清水次郎長」と「天保水滸伝」ほど面白い物語はないと語られています。いずれも侠客の争いを扱った講談で、大岡昇平がこれらを最高と書いていることに救われました。

もう一冊は子母澤寛の『遊侠ものがたり』。この本のまえがきには要約すると、〈やくざ者の多くは無学ゆえに、人間そのものの正体が現れる〉とあります。なぜ人はヤクザに惹かれるのか、その理由を見事に明文化しています。

10位に再び溝口さんの『食肉の帝王』を挙げたのは、10冊の一番上と一番下を溝口さんにして、間の本を挟みたかったから。

溝口さんが「肉」を書いたので、僕は「魚」を書きました(『サカナとヤクザ』)。本書は溝口さんへのアンサー・ソングなんです。(取材・文/砂田明子)

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「戦後70年以上もたっている今、零戦搭乗員に新たに取材して新真実、新証言を見つけ出していることに驚きました。この本は一次情報の塊です。神立さんは大学の先輩で、一人の書き手として尊敬しています」