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米中ハイテク冷戦、実は米国と同盟国側が衰退する恐れアリ

やり過ぎは負け犬のブロック化を招く

この半年あまり、世界経済に与える悪影響が憂慮されてきた米中貿易戦争に変化が見えてきた。

絶好調だった米国経済に昨年末陰りが見え、株価が大きく下がった。内政面ではロシア疑惑や国境の壁予算の成り行きが思わしくない…そんな中で、トランプ大統領は米中交渉をまとめて手柄を誇ろうと躍起になっている。

貿易戦争を丸く収めたい点では、経済減速に直面する習近平主席も同じ。両トップが交渉決裂を恐れる心理状態になっていることは救いだ。交渉はまだ予断を許さないが、決裂しそうになれば株価が暴落、トランプ大統領が慌てて介入するだろう。

今年の世界経済は中国減速、ブレグジット漂流など悪材料が目白押しだ。これ以上、経済を下ブレさせるのは止めてほしい。

 

ハイテク冷戦の主導者はトランプではない

しかし、米中貿易戦争の傍らでは、別の米中対立が激化している。「ファーウェイ封じ」に象徴されるハイテク冷戦の動きだ。こちらは、たとえ3月1日に交渉が妥結しようと、影響を受けずに進行していく。

このハイテク冷戦はトランプ(ホワイトハウス)が主導する米中貿易戦争とは異なり、議会・諜報機関・軍・各省庁・シンクタンクなど、組織横断的な「安保・情報サークル」のコンセンサスの下で進められている印象だ。当然、トランプとは思惑も異なる。

彼らにとって、トランプはむしろ仕事を邪魔する危険人物だろう。と言うのも、彼らが最初に起こしたアクション、中国ZTE社に対する商務省の制裁措置(昨年4月の当初の制裁)を、習近平から嘆願の電話を受けたトランプが勝手に減刑させてしまった「前科」があるからだ。

これ以降、米国の「安保・情報サークル」はトランプの容喙を受けないように、議会での立法という手法を志向するようになったようだ。

いまこのグループは3つのアクションを実行中だ。

① 中国製通信機器等のボイコット(2019国防権限法)

2018年8月に米議会で成立した「2019年国防権限法」は、ファーウェイほか中国企業5社の製品やその部品を組み込む製品を米政府機関による調達から2段階に分けて排除することを定めた。

第1段階(2019年8月以降)では、米政府機関が調達することを禁止する。第2段階(2020年8月以降)では、上記製品を社内で利用している世界中の企業が米政府機関の調達から排除される。

経済への影響がとりわけ懸念されるのは第2段階だ。米国政府機関と取引する会社は国籍を問わず、中国製機器不買を誓約させられる。仮に違反が見つかれば、何億ドルもの罰金を科せられることになるだろう。

規制の実効性を担保するために、ボイコットの範囲が際限なく拡がることが心配だ。
例えば、「我が社は中国カンパニーと米国カンパニーを分社しているから、問題ないはず」と考える日本企業がいるようだが、そんな便法を許せば幾らでも脱法が可能になる。別会社を噛ませるといった脱法を防ぐために、調達に参加する企業だけでなくグループ企業全社から中国製機器を一掃することが求められたらどうするか。グループの中国現地法人までボイコットに参加できるだろうか。

② 輸出規制の強化(輸出管理改革法〈ECRA〉)

これは既存の輸出規制でカバーしきれない「新興技術」(emerging technology)のうち米国の安全保障にとって必要な技術が「輸出」経由で流出することを防止する新しい仕組み作りだ。

対象技術は、(1)米国からの当該技術の持ち出しだけでなく、(2)当該技術の付加価値が一定以上含まれた製品は、米国以外の国から第三国への輸出(再輸出)についても、米商務省の許可が必要になる。

ここでも対象となる「新興技術」の範囲が「バイオ、AI・機械学習、先進的計算技術、ロボティクス、先進材料」など抽象的かつ広汎で、何がどこまで対象になるのかが甚だ不透明だ。 とくに「再輸出」は米当局が算定する「付加価値」の割合によって、規制対象になったり・ならなかったりする。

違反が発覚すれば、これまた億ドルの罰金を科される、果ては見せしめに社員や幹部の逮捕だってあり得るかも知れないだけに、経済界は戦々恐々だ。

③ 外国投資規制の強化(外国投資リスク審査近代化法)

投資経由の技術流出を防止するため、対米投資の審査を行うCFIUSの規制対象・審査範囲等を強化、さらに外国人の重要技術情報へのアクセスも事前規制対象に含めた。
近年、米国のハイテクベンチャー企業などに対する中国からの投資は軒並みCFIUSによってブロックされてきたが、この立法により、従来は規制されていなかったようなマイナーな形態まで規制の網がかけられた。

④ 技術流出遮断と中国封じ込めの動きはさらに

以上の措置はいずれも関係省庁の横断的な連携と議会の関与によって生まれたもので、米国「安保・情報サークル」の裾野の広さと彼らの対中懸念の深さを窺わせる。

しかし、封じられていない「技術流出の穴」がなおある。人を介した技術流出だ。このため、「輸出管理」の枠組みをベースにして、中国籍の技術者の雇用を制限・監視する、さらには中国人留学生に対するビザを制限するといった案も議論されているようだ。

ここには、中国政府が進めている「千人計画」という高度人材呼び戻し事業も災いしている。これは中国各地の地方政府が中央からノルマを課せられて、米国等で活躍する地元出身の科学者を破格の待遇でUターンさせる事業だ。帰国を決心した対象者は所属していた米国の大学・企業の研究所からありったけの技術情報を持ち帰るように奨励されると言われており、組織的な技術窃盗ではないかと疑われている。

しかし、米国は世界中から才能を惹きつけて栄えてきたはず。中国のえげつないやり方も悪いが、自国の良さを殺しかねない規制まで導入しようとする様を見ると、かえって米国という国の衰えを感じてしまう。

中国企業封じ込めも、上記の2019国防権限法だけに止まらない。最近来日したある米国識者(NSC〈国家安全保障会議〉のOB)は、「米国は水面下で日本の半導体等のメーカーに『ファーウェイにはものを売るな』という圧力もかけ始めている。誰も口にしないが、日米のIT企業に『中国とは売り買いをするな』と強要すれば、ITのサプライチェーンは大混乱・大打撃を被るのではないか」と述べていた。同感だ。