K-POP市場は本当に巨大か? ファクトで分析するその「実力」

彼らが「海外進出」にこだわる理由
飯田 一史 プロフィール

余談ながら、BTSの成功は「SNSを駆使した」ことが一因とされる。Big Hitの台頭以前は、JYPこそが、テレビをはじめとする既成メディアを利用した戦略に長けたSMに対して「ネットの使い方がうまい」と言われていた。

たとえばSKテレコムと提携していち早くウェブメディアに対応し、『Nobody』は日本で言う「踊ってみた」(楽曲に合わせて踊る、ユーザー投稿の動画)を流行させた代表的な例となった。BTSの躍進を語るさい、JYPからBig Hitに継承されたものに関してはそれほど論じられていない。だがパン代表がいわゆる「韓国三大事務所」のうち、SMでもYGでもなくJYP出身だったことの意味は大きいと思われる。

「合理性」だけでは説明がつかない

話を戻すが、SMやJYPの動きや中国の音源市場の大きさ、US市場での実績を見れば「韓国の外の市場が大きいから取りに行く」などという単純な話ではないことがわかるはずだ。

K-POPのリーダーたちにとって中国やUS、日本の音楽市場を攻略すること、過去の中国や日本のアーティストがなしえなかったレベルで世界中で人気になることには「儲かる」以上の特別な意味がある。それを求めて情熱を燃やしてきたがゆえに、今がある。

イ・スマンはフォークシンガーから司会者を経て経営者になった。パク・ジニョンは現役のR&B、ファンクのシンガーソングライターである。YG代表のヤン・ヒョンソクは韓国で「文化大統領」と呼ばれるほど影響力を持ったグループであるソテジ・ワ・アイドゥルのダンサーだった。

彼らはみな、自身もパフォーマーなのだ。つまり、人気には金銭に換えがたい快楽もあることを、身をもって知っている人々である。そして彼らは、海を越えて異国(韓国)にやってきたフォークやソウル、ヒップホップ、かつての日本のポップミュージックから刺激を受けてきた人間でもある。

これらを無視して、「K-POPの世界展開」の動機を懐事情にだけ見いだすのは不自然だと言うほかない。

 

そもそも経済合理的にのみ考えるなら、エンターテインメント産業、コンテンツ産業を事業ドメインとして選択すること自体がスジが悪い。

音楽産業はアーティストの人気の浮き沈みの事業のボラティリティの高さに直結する(安定しない)。また、たとえば製造業と比べても圧倒的に小さい市場しかなく、かつ、特別に利益率が良い(投資効率の良い)産業でもない。

たとえば日本のGDPは550兆円だが、コンテンツ産業の市場規模はすべて合わせても12、3兆円しかない。一方製造業は、財務省の「法人企業統計」を見ると売上が約400兆円ある。

韓国を見ても、Wall Street Journalのサイト上で2017年度の売上を比較すると、サムスン電子は239兆5753億7600万ウォン(約24兆円)、現代自動車は96兆3760億7900万ウォン(約9.6兆円)、LGエレクトロニクスは61兆3962億8400万ウォン(約6.1兆円)。

対してSMエンターテインメントは3653億8700万ウォン(約365億円)、YGエンターテインメントは3498億6100万ウォン(約350億円)、FNCエンターテインメントは1166億8700万ウォン(約117億円)、JYPエンターテインメントは1022億4200万ウォン(約102億円)、非上場のBig Hitエンターテインメントが924億ウォン(約92億円)。桁が違う。

断っておくが「経済合理性“だけ”ではない」のであって、海外進出に「経済合理性がない」とは言っていない。経済的な背景については次回以降示していく。

(つづく)