K-POP市場は本当に巨大か? ファクトで分析するその「実力」

彼らが「海外進出」にこだわる理由
飯田 一史 プロフィール

SMにとって中国とは何か?

SMは「アジアの会社であり、アジアの歌手を生み出そうとしているのです」(前掲、東洋経済のイ・スマンインタビューでの発言)と繰り返し語ってきた。

彼らにとって日本進出が単に「市場が大きいから」以上の意味を持っていたことは、同誌上での、

〈先進国の定義づけは難しいですが、日本は大衆文化先進国であることは明らか。水の流れに逆らうわけだから、“モーター”が必要だった。S.E.S.で進出した後、語学は必須と痛感し、BoAには歌、ダンスと共に日本語教育を徹底〉

という発言(SMはS.E.S.の日本進出失敗の原因を、彼女たちの日本語が不十分だったことだと分析し、BoAはネイティブ並みに話せるようにしてデビューさせた)や、SMのCEOを務めるキム・ヨンミンの、

〈音楽の分野ではまだまだ日本が上ですし、文化というものはやっぱり先進国で花開いたものがやっぱり優位なんです〉(GQ JAPAN「アジア市場をひとつにする「アイドル」の作り方――韓流エンターテインメントは世界を制するのか 」https://gqjapan.jp/life/business/20110601/アジア市場をひとつにする「アイドル」の作り方/page/3

という発言から推察できる。

 

90年代まで、アジア圏の人間にとって日本の音楽は憧れの対象だった。たとえばイ・スマンは西城秀樹らを、パク・ジニョンは小室哲哉や桑田佳祐らを敬愛していることは複数の発言、または彼らの手がけた作品から確認できる。

重要なのは、SMが日本だけでなく中国進出にも積極的であることだ。それも、中国の経済的な巨大さを誰しもが意識せざるをえなくなった2010年代からではなく、1990年代末からずっと積極的だったことである。

SMが手がけた韓国の“第一世代アイドル”であるH.O.T.が2000年に韓国人歌手として初の北京単独公演を成功させて以降、2004年には東方神起に中国人メンバーを新規加入させようとしたり(ファンからの反対により頓挫)、その後もSUPER JUNIORやEXOではManradin(中国語)を意味するMチームを編成し、f(x)に中国人メンバーも入れるなどしてきたことから、中国が特別な位置づけの存在であると感じられる。

日本進出に関しては「CDの単価が韓国より高く、枚数もたくさん売れて儲かるから進出する」という説明ができるかもしれない。しかし中国は2000年代までは海賊版天国であり、国際レコード・ビデオ制作者連盟(IFPI)調査では2017年でも韓国の494.4億円よりも小さい259.4億円しか音楽(音盤・音源・演奏権等)市場がない。

もっとも、2017年の韓国の音楽公演業売上が韓国コンテンツ振興院発表では約9300億ウォン=約930億円であるのに対し、中国演出行业协会の発表によれば、中国のそれは489.51億元=約7832億円であり、ライブ市場では中国が韓国を大幅に上回っている(http://www.ccm.gov.cn/zgwhscw/ycsc/201809/85a0c5add82d4901907f83628c145f5f.shtml)。しかし、SMが進出を開始した90年代後半から中国のライブ市場が巨大だったわけではない。

イ・スマンは「チンギス=ハンもフランスまでは行けなかった。韓流は行く。征服する」「米国は過程に過ぎず、最終目標は中国。5年以内に世界のトップになる」と2011年6月、SM TOWN LIVEパリ公演を前に「朝鮮日報」のインタビューで語っている(筆者には該当記事を見つけられなかったのだが、この発言は朝鮮日報2011年9月1日「SM所属歌手ら、10月マディソン・スクエア・ガーデンで公演」や、毎日新聞2011年6月23日夕刊「POPSこぼれっ話:欧州でKポップブーム 戦略通り成功するか」で引かれている)。

2018年10月にはSM所属のNCT127がラテンテイストの『Regular』をAMA(アメリカン・ミュージック・アワード)で披露し、USのTV番組に進出するなど本格的な北米デビューを果たして話題を呼んだが、それでもスマンにとっては「米国は過程に過ぎ」ないのだ。

中国史上最大の領土を獲得したチンギス・ハーンを引き合いに出すところに、スマンの中国への意識の大きさ――「市場」というより地政学的・文化的意味合いも含めた「存在」としての巨大さ――が透けて見える。

高麗がチンギス・ハーンが建国した元にどれだけ苦しめられ、朝貢品として女性を献上しなければならなかったこと(貢女)をはじめとする屈辱を味わわされてきたのかは、韓国のドラマや映画でも繰り返し描かれてきたことであり、日本人もよく知る事実だろう。

韓国と中国の歴史的な関係を思えば、スマンの発言に込められた意味は軽々しいものではないはずだ。その中国を制覇すること、文化的・経済的に超えることがスマンの夢なのである。