K-POP市場は本当に巨大か? ファクトで分析するその「実力」

彼らが「海外進出」にこだわる理由
飯田 一史 プロフィール

また、この理屈では、今や世界第6位の音楽市場へと成長した韓国よりも市場が小さい東南アジアや南米、中東といった、新興国市場へのK-POPの進出が昨今さかんな理由も説明しにくくなってしまう。

「大市場である日本の主要都市までソウルから飛行機で2~3時間しかかからないのだから、進出しない手はない」と“距離”を理屈に持ち出す人もいる。では北京や上海、台北からでも3~4時間しかかからないのになぜ中国、台湾から日本への進出が韓国ほど盛んにならないのか? まったく説明になっていない暴論である。

 

金がかかっても「海外に出たい」

似たような話として「韓国では音源の違法ダウンロードが横行して国内市場が壊滅的になったから外に出ざるをえなかった」というものもある。『古屋正亭のALL ABOUT K-POP』(ソフトバンク・クリエイティブ、2010年)によれば、韓国で違法ダウンロードによる被害が目立つようになったのは2001年からであり、2006年には2000年の10分の1の市場規模まで激減したという。

しかし、SMエンターテインメントが手がけ、韓国で社会現象となったアイドルH.O.T.が中国でも人気が爆発したのは早くも97年(北京公演は2000年)であり、BoAに先んじて日本に進出した女性アイドルユニットS.E.S.の日本展開が始まったのは98年からだ。つまり、違法ダウンロードの横行以前から海外進出は始まっている。

したがって「違法ダウンロードによって国内市場が壊滅したから外国に活路を見いだした」という理屈は、時系列を考えれば成り立たない。

あるいはSMがニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックやバックストリート・ボーイズといったボーイズ・グループの育成方法を参考に作り上げ、今では韓国の多くの芸能事務所で採用されている「練習生制度」を例に出して「K-POP歌手にはデビューまでに多額の投資が必要で、国内だけではリクープできないから外に出る」という言い方がされることもある。

(練習生制度とは、スカウトで見つけてきたり、オーディションで選んだ練習生=アイドル予備軍を、毎日朝から晩まで唄、踊り、演技、語学などを徹底的に仕込んでからデビューさせるというしくみであり、練習生の育成費用は事務所側がすべて負担するのが一般的だ)

だがそもそも多額の投資が必要なのは、海外でも通用するようにパフォーマンスから語学までを叩き込んでいるからだ。これでは「世界展開するために多額の投資がかかるから、世界展開せざるをえない」と言っているようなもので、理屈が循環している。

ではなぜ、K-POPは海外に進出するのか?

イ・スマンやパク・ジニョンは、投資家や取材しにくるメディアを納得させるためにマーケットのサイズを持ち出しているだけで、本当は「韓国国外でも認められたい」――アジア圏で、USで、あるいはワールドワイドに活躍するスターを作り出したい――という「夢」「人気や名声への渇望」の方が先にある、というのが私の見立てである。

SMの中国、JYPのUSへの執着を見れば、K-POPの世界展開(海外進出)は経済的な理由だけでは説明がつかないことがわかる。

JYP創業者でシンガーソングライターでもあるパク・ジニョン(Photo by gettyimages)