「福島の11歳少女、100ミリシーベルト被曝」報道は正しかったか

「がん発症」とも書かれて…
林 智裕 プロフィール

誤解を与えかねない

朝日新聞の記事ではさらに、

〈放医研では『100ミリシーベルトは精査したものではない最悪を見こんだ数値で、健康への影響は極めて少ないと判断した』と説明。『確からしさも乏しく、公表するような数値ではない』(広報担当者)との考えだ。佐瀬氏は『デリケートな事象で、対応を慎重にご判断いただきたいと伝えた。想定リスクも小さく、仮に告知や調査をした場合の本人や家族の負担の方が大きいと判断されたのでは』と放医研の判断に一定の理解を示している〉

とも報じられています。この経緯について筆者が放医研に取材したところ、朝日新聞の報道内容、すなわち、

・佐瀬氏から情報共有として測定値(cpm)と推計値(Bq)とを受けた放医研が、
・被曝のおおよその程度を理解するために、正確さに欠くことを承知の上でSvへの換算を試み、
・「(放射性物質の)取り込みが3日前と(仮定)して甲状腺等価線量で100ミリシーベルト程度」と試算した。

という事実関係の確認がとれました。つまり、

・実際に計測されたのは、事故直後に本来の内部被曝用測定器を使わずに得られた数値(cpm)であり、その数値を佐瀬氏がベクレル(Bq)に換算・推計した。
・それを基に放医研が試算した「100mSv程度」という数値は、「不正確だが、あくまでも最大の危険性を考慮し、かつ内部被曝測定の重要性を考えて」試算した参考値であった。 

ということがわかります。

 

しかし東京新聞の記事には、こうした「100mSvという数字は、あくまで最悪の事態を想定した概算値である」といった事実に触れる記述は放医研のコメント以外になく、「11歳少女、100ミリシーベルト被ばく」という断定的なタイトルがつけられています。

その一方で、「国や福島県の公表資料には『がんのリスクは一〇〇ミリシーベルト未満で検出困難』『チェルノブイリ事故では一〇〇ミリシーベルト以上でがん発症』と記されている」と書かれています。

このような記述では、あたかも少女が「確実に」100ミリシーベルトの被曝をし、がん発症が確定的であるかのような誤解を、多くの読者に与えてしまうのではないでしょうか。

また、記事とともに掲載された放医研の資料に関しても、「甲状腺等価線量で100mSv程度」と記された部分のみが拡大され、「影響は少ないでしょう」「…いうことがあるので、もう少しきちんと計算してみる必要がある」などと記載された箇所についての説明はありませんでした。

東京新聞の記事に掲載された資料。拡大されていない箇所には「影響は少ないでしょう」「…いうことがあるので、もう少しきちんと計算してみる必要がある」などの記述がみられます。

「100mSv以上でがん発症」?

その後の朝日新聞の報道などとあわせて読むと、東京新聞の「11歳少女、100ミリシーベルト被ばく」という記事タイトルに確証が不足していることがうかがえます。加えて、同記事中の「100mSv以上でガン発症」という断定的な記述もまた、適切ではないと言えます。

実際に、チェルノブイリでの原発事故によって得られた知見では、

・甲状腺被曝線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できず(150~200mGyは、同じ数値のmSvとほぼ同等)

・大規模なスクリーニングを行なった場合、汚染を受けていない地域でも6~8倍の増加がみられる(=甲状腺検査を大規模に行うことによって、原発事故とは無関係に存在している甲状腺ガンの発見数が増える)

とされています。

ロシア放射線防護科学委員会委員長、ヴィクトル・イワノフ氏の論文からのグラフ。横軸が被ばく量(Gy)、縦軸が被曝が無い状態を1とした相対リスク。イワノフ氏は、「放射性ヨウ素 (I-131) による甲状腺被ばく線量が150~200mGy以下では小児甲状腺癌の有意な増加は検出できなかった」としています(http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g59.html)。

こうした知見は近年のUNSCEAR(国連科学委員会)による報告書や白書からも裏付けがなされています(https://synodos.jp/fukushima_report/21606 や、
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160120-00000003-wordleaf-soci を参照)。

もちろん、放射線は「いくら浴びても安全」というものではありません。それと同時に「少しでも浴びたら危険」というものでもありません。私たちの身の回りにあるさまざまなリスクと同様、その量が重要になってきます。