今、アメリカでなにが起きているのか?「AOC現象」が象徴すること

インスタ政治、その未来
池田 純一 プロフィール

「忍び寄る社会主義」への懸念

もちろん、そんな彼女の急激な上昇ぶりに、眉をひそめるものたちもいる。

そもそもAOCをバックアップしたBNC自体、現職の議員からすれば、いつ予備選で戦いを挑まれるかわからない存在であり、その中から登場したAOCに警戒心を抱く人たちもいる。

GNDのような「壮大な物語」に対して現実的な実効性を疑う実務的な人たちもいる。AOCに対して、議員になった以上、活動家のように事態をただ紛糾させるだけではなく、きちんと立法家(lawmaker)として振る舞ってほしいという要望もある。

加えて、これは何もAOCひとりに限ったことではないのだが、民主党がなし崩しに左傾化することへの不安もある。

多分、そのような抵抗感を最も雄弁に語ったのがスターバックスの元CEOのハワード・シュルツだ。先日、民主党からでも共和党からもでもなく、第三軸としての「インディペンデント」として、大統領選に立候補する意志と計画があることを明らかにした。

このシュルツの表明には非難が殺到した。なぜなら過去の大統領選から得られた教訓に照らせば、インディペンデントとしての立候補は、本選において反トランプ票の一部を民主党候補者から奪うだけのことで、結果としてトランプの再選を促すことにしかつながらないと目されるからだ。

ハワード・シュルツ 〔PHOTO〕gettyimages

けれども、シュルツにももちろん理由はあり、それは今の民主党が、あまりにも左傾化しつあるからだ。

エリザベス・ウォーレンを筆頭に、企業やビジネスを一方的に敵視する声ばかりが高まる現状は、当の企業経営者のひとりとして民主党の活動を長年応援してきたシュルツには理解できないことだった。

 

今年65歳のシュルツが知る民主党とは、穏健派なり中道派なりも行き交う自由主義(リベラリズム)の政党だった。その民主党を社会主義が侵食しつつあるという恐怖だ。

そして、この民主党の左傾化から漂う「忍び寄る社会主義」への懸念こそ、トランプが抜け目なく突いてきたところだった。連邦政府のシャットダウンによって異例の一週間遅れの実施となった今年の一般教書演説の中で、トランプは、アメリカは決して社会主義に転じることはないと断言した。

そうしてアメリカ社会に染み付いた、少なくともトランプと同世代であるベビーブーマーの高齢者たちに根付いた、冷戦時代からの「社会主義アレルギー」を刺激した。すでにアメリカでは、これが2020年大統領選に向けたトランプの戦略だという声もある。「民主党vs共和党」を「社会主義vs自由主義」の構図に読み替えるのだ。

一般教書演説を行うトランプ大統領 〔PHOTO〕gettyimages

つまり、トランプにとって一般教書演説とは、再選を目指すためにぜひとも行わなければならなかったスピーチだったのである。

メキシコ国境沿いに「壁」を建設するための予算が確保されないことを理由に、アメリカ政治史上最長の35日間も続けた「シャットダウン(連邦政府の閉鎖)」を自ら撤回してまで、一般教書演説の「連邦議会での実施」に執着したのも、そのためだ。なぜなら、その議場には、まさに彼が敵視する、民主党の社会主義者たちが多数着席していたからだ。

その意味では、トランプが「社会主義の浸透」を憂えた場面で、中継画像がバーニー・サンダースの姿を捉えたのは象徴的だった。「トランプvsサンダース」は、もしかしたらありえたかもしれない2016年大統領選でのマッチアップだったからだ。

確かにサンダースは、現在の民主党の「左傾化=プログレッシブ(進歩派)の台頭」のきっかけを起こした張本人だ。

サンダースを予備選で負かしたセンター・レフト(中道左派)の代表だったヒラリー・クリントンがトランプに敗退したことで、「もしもサンダースが本選に進んでいれば……」という想定が、選挙後に生じたのは間違いなく、それもあってサンダースが掲げた国民皆保険、公立大学の学費無料化などのような政策を語ることがタブーではなくなった。

2016年の大統領選で左派の有力候補として注目されながら結局出馬を見送ったエリザベス・ウォーレンが、今回、先んじて大統領選に関心を示したのも、ヒラリーの敗退によっていわば党内の重石が取れたからだった。その効果は予想以上で、すでに11名が大統領選に名乗りをあげている。