今、アメリカでなにが起きているのか?「AOC現象」が象徴すること

インスタ政治、その未来
池田 純一 プロフィール

トランプとの大きな違い

このあたりは、同じソーシャルメディアを使っていても、だいぶトランプとはニュアンスが違う。

トランプの場合は、ツイッターの利用以前に、すでにリアリティショーのホストとして高い知名度を得ていた。そのテレビで得た知名度を増幅するためにツイッターを利用している。いわば「拡声器」だ。

対してAOCの場合は、テレビの人気などない状態で、ひたすらソーシャルメディアによるバズとミームで知名度を高めていった。

もちろん、予備選における番狂わせの大勝利はマスメディアでも取り上げられ、それが知名度アップに貢献したことは確かだが、そのような瞬間的な露出機会も、あくまでもソーシャルメディア上の話題の一つとして扱い、存在感を増していった。

加えて、そうしたセルフプロモートのネタを支持者たちとの間の対話の最初の一言にしている。

この点でAOCは、ソーシャルメディア以後の世代の政治家であり、彼女のツイートやインスタグラムへの投稿は、トランプがもっぱら自説の拡声器にツイッターを使っているのとは異なり、議会の外にいる活動家や支持者、あるいは彼女に関心をもち始めている人たちとの間に、情報と意見のフィードバック回路を作り出している(メディアとしてのインスタグラムについては『インスタグラムと現代視覚文化』が参考になる)。

このあたりは、2016年大統領選の際に、マケドニアでフェイクニュースサイトを運営していた若者たちが、トランプ支持者のみならず、ヒラリーやサンダースの支持者向けのフェイクニュースサイトもつくったものの、彼らは簡単には「フェイク」に釣られない、だからトランプに特化したと語っていたこととも通じる。

2016年に生まれた「サンダースの子どもたち」は、ITに長けた活動家たちであり、その典型がAOCということだ。

それゆえ早くもAOCを大統領に、という声も上がりつつある。もっとも29歳の彼女は、アメリカ憲法の規定で35歳になるまで大統領には立候補できない。それゆえ2024年の大統領選を睨んでいるという噂もすでにあり、それまでの間に、夢をたくさん売っておくということかもしれない。彼女はまさにソーシャルメディア時代の申し子なのだ。

 

民主党の未来を担うライジング・スター

奇しくも冷戦が終結した1989年に生まれたAOCは、昨年11月の中間選挙で、ニューヨーク第14区(ブロンクスとクイーンズにまたがる選挙区)から選出され、女性では史上最年少の連邦下院議員となった。

もっともこの選挙区は、伝統的に民主党議員を輩出してきたリベラルな地区であり、その意味でAOCが注目を集めたのは、6月の予備選でベテランのジョー・クローリーに勝利した時だった。

すでにAOC伝説のエピソードとして何度も語られていることだが、若い頃のバラク・オバマ前大統領と同じように、地元ブロンクスでコミュティオーガナイザーの活動をするかたわら、ボストン大学の学費ローンの返済のためにウェイトレスやバーテンダーをしていた。

その若干28歳の小柄なプエルトリコ系女性が、ニューヨーク州議会からの叩き上げで10期連続当選で20年下院議員を務め、ナンシー・ペローシの後継者として将来の下院議長候補のひとりであったクローリーを破ったのだから、快挙以外のなにものでもなかった。

とはいえ、そのような快挙も、理由のないことではなかった。

AOCは、ボストン大学在学中に、マサチューセッツ州選出のテッド・ケネディ上院議員の事務所でインターンを務めたこともあり、当時から政治には強い関心をもっていた。

2008年、2012年のオバマの大統領選キャンペーンにもボランティアで参加しており、2016年の大統領選では、他のミレニアル世代同様、サンダースを支持し、ニューヨーク市のキャンペーンの現場も仕切っていた。その縁でDemocratic Socialists of America(DSA)に加わり、サンダース同様、「民主的社会主義者(democratic socialist)」を名乗ることになった。

AOCはその後、Brand New Congress(BNC)という組織の公募を通じて、2018年の中間選挙を目指すことになる。

BNCは、2016年の民主党予備選でサンダースの敗退が決まった後にサンダース陣営に集まった若手活動家たちによって設立された組織で、目的は、サンダースと政治信条を同じくする人物を連邦議会に送り、議会の内部から政治を変えることだった(当時のサンダース陣営の動きやBNCについては、拙著『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生』の7章が参考になる)。

実際の選挙活動の折りには、BNCから分かれて設立されたJustice Democrats(正義の民主党:JD)のサポートも得ていた。むしろ、今ではJDがAOCのブレイン的存在だ。

こうして見事、中間選挙で勝利したAOCは、いまや民主党の未来を担うライジング・スターとなった。