アレグザンドリア・オカシオ=コルテス〔PHOTO〕gettyimages

今、アメリカでなにが起きているのか?「AOC現象」が象徴すること

インスタ政治、その未来

「AOC現象」とは何か

アメリカでは、今、小さな旋風が吹き荒れている。

その旋風の中心にいるのがAOC。この1月に女性では史上最年少の29歳で下院議員となった“AOC”=アレグザンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)だ。瞬く間に彼女は2020年の大統領選のアジェンダセッターになりつつあり、「AOC現象」という、時代を象徴する文化的アイコンと化している。

実際、AOCは、一年生議員としては異例なことに、年明け早々、アメリカの伝統的な報道番組『60ミニッツ』に出演し、そこで「1000万ドル以上の年収のある層への所得税率を70%に引き上げる」という案や、気候変動対策として20年をかけて化石エネルギーから再生可能エネルギーへと完全転換を目指す「グリーン・ニューディール(Green New Deal: GND)」などを提唱した。

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特にGNDは、AOCの看板政策だ。AOCは昨年の中間選挙の際、国民皆保険や公立大学の学費無料化などを公約として掲げていたが、これらは彼女のメンター(師匠)にあたるバーニー・サンダースの2016年大統領選における公約でもあった。だがGNDは、AOCが今回、全面的に押し出した目標だ。

29歳の彼女が50歳になるまでにかなえたい夢であり、当然、再生可能エネルギーに転換した暁には、その後の世界の未来構想も50代以後の彼女の仕事となる。夢物語に聞こえるものの、今29歳の彼女が20年かけて行う事業といわれれば、その壮大な夢にかけてみたいと思わされてもおかしくはない。

そのような長期ビジョンの語り(ナラティブ)が、彼女の話に人びとがなんとはなしに惹かれる理由なのかもしれない。それはミレニアル世代の背負った(背負わされた)課題への対応策であり、その解決の先にさらに未来を描くものだからだ。

そのようなAOC世代の「責務と夢」の大きさを感じてか、GNDには大統領候補者の中からも、カマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン、コーリー・ブッカー、キルステン・ジルブランド、フリアン・カストロ、エイミー・クロブチャーの6名が支持を表明している。立候補はまだだがサンダースやベト・オルークも支持に回っており、GNDが2020年大統領選における争点の一つになりそうな勢いだ。

ちなみに2020年の予備選では、民主党は全部で12回の公開討論会(ディベート)を計画しており、第1回は今年の6月を予定している(最終回は来年4月の見込み)。となると、第1回ディベートでのテーマの一つとなる可能性も高い。

端的に、トランプ大統領の悲願であるメキシコ国境沿いの「壁」の建設と、代替エネルギーへの転換と、どちらに政府予算を投じるのか、選択を迫るものとなりそうだ。

もっとも、再生利用エネルギーへの転換は随分前から欧州では盛んであるし、アメリカ国内でもカリフォルニアを中心に長らく取り組まれてきた。2013年には、中国もグリーンエネルギーへの転換を政策に掲げた。もはやまったく夢物語ではない。むしろ、2020年の時点なら、代替エネルギーへの開発において中国に遅れをとってもいいのか?という議題も設定可能だろう。

AOCは、このようにアジェンダセッターとなりつつある。

 

「お騒がせ力」という武器

実のところ、このあたりの「壮大な夢を人びとに語りかける」ところが、AOCがトランプと拮抗するところであり、彼女によって、今後のInstagram Politics(インスタ政治)の未来がどうなるのか、気になるところだ。

というのもGNDは、昨年11月にAOCがGNDを推す若者たちとともにナンシー・ペローシ下院議長の事務所前でシットイン(座り込み)のアピールをした頃には、誰も気にかけない政策にすぎなかった。だがその数ヵ月後の2月上旬には、下院議員からは60名、上院議員からは9名の賛同を得るまでになった。

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ツイッターやインスタグラムを通じて人びとにAOCがその意義を訴えかけた成果であり、このようにあっという間に「政治の空気」を作り出してしまう彼女のコミュニケーション能力こそが、経験のある議員たちから彼女が一目置かれる理由だ。少なくとも彼女を自陣にとり込むだけのメリットがある。

実際、300万人を超えるツイッターのフォロワー数を誇るAOCは、民主党議員の中ではほぼ唯一の、ソーシャルメディア上でトランプに対抗できる存在でもある。むしろ彼女の場合、ツイッターのみならず今どきの若者らしくインスタグラムの活用にも秀でている。

議員に就任してからも、まさに一年生議員の気楽さから、フットワーク軽く、まるで潜入レポーターのように、一年生議員として体験することを、逐一、インスタグラムに写真や映像でアップしている。そうして「連邦議会の不思議」を人びとにレポートしていた。

たとえば、就任後いきなり政府のシャットダウンに直面したため、そのシャットダウンを解くキーパーソンのひとりである、上院議員の共和党ナンバーワンであるミッチ・マコネルを探しまわってみせたのだが、その際にも“#WheresMitch”というハッシュタグの下で行動し、彼女が個人的に経験することを、いつの間にか一つの事件に変えてしまっていた。

そのあたりの「お騒がせ力」が彼女の武器である。同時に、ミレニアル世代なら誰もが行ってもおかしくはない行動である点が、彼女が若い世代の代表=アイコンとしてみなされるゆえんである。