# 中国経済

経済の悪化が止まらない…中国が「中所得国」へ逆戻りする可能性

これは米中貿易戦争のせいではない
安達 誠司 プロフィール

需給バランスを無視してまで

さらにいえば、昨年の中国から米国への直接投資(例えば、中国企業による米国企業の買収や資本参加など)はほとんどゼロ(もしくは資本の引き揚げを意味するマイナス)となっており、中国が米国から最先端の技術を吸収することが以前よりも困難になっている。

現在の中国国内のハイテク産業の状況を鑑みるに、一方的な「パクリ経済」による本来の意味での「中国製造2025」の実現(すなわち、ハイテク産業による技術革新を梃子にした高成長局面の維持)は難しいのではなかろうか。

このように、中国は、産業構造の転換に苦慮している一方、このところ、生産を大きく伸ばしているのが、鉄鋼、非鉄、化学といった旧来型の重厚長大素材産業である(図表3)。

例えば、中国の鉱工業生産指数全体の伸び率は減速傾向が止まらないが(昨年12月時点では前年比5.7%増、ちなみに2012年までは前年比2桁台の拡大ペースであった)、同月の鉄鋼製品生産量は前年比9.1%増で昨年4月頃から伸び率が拡大傾向にある。

また、貿易統計をみても、11月の鉄鋼非鉄製品輸出は前年比13.1%増、住宅等の建築部財の輸出は同31.0%増、化学製品は同13.2%増と加速度的に増加している。

〔PHOTO〕gettyimages

だが、このような素材産業の生産が中国経済を下支えしているかといえば、必ずしもそうではないと考える。例えば、12月の中国の生産者物価指数は前年比+0.9%と伸びが大きく鈍化した。

もともと生産者物価指数は生産の減速とともに減速傾向にあったが、素材生産が拡大したと推測される昨年終盤に減速ペースを加速させた。これは、中国国内での素材生産が需給バランスを崩していることを示唆しているのではなかろうか。

このような素材系の重厚長大産業の多くが生産性の低い国営企業であるということを考えると、GDP等の経済統計の数字を「作る」ために需給バランスを無視して生産を拡大させた疑念が残る。

 

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今回は、中国製造業の現況について言及した。最近の中国経済の苦境については、この他にも重要な論点があるが、これは他の機会に譲りたい。

ただ、最近の中国国内の製造業の活動を見る限り、中国経済の苦境が今後も続けば、中国はハイテク企業への産業構造の転換どころか、旧来の国有企業を中心とした低生産性部門主導の産業構造に逆戻りするリスクが出てきたのではなかろうか。

昨年、中国は「高所得国(1人当りGDPが1万ドルを超える)」の仲間入りをしたと推測されるが、製造業の現況を見る限りは早くも「中所得国の罠(というより中所得国へ逆戻り)」に嵌りつつあるような印象がある。

中国人の研究者には、世界をリードする米国の学会で最先端の研究で成果を上げている人が数多くいるだけに非常にもったいないことだ(これは経済学の分野でも同様だが)。