JALとANAの「熾烈な競争」が、私たちに恩恵をもたらす理由

未来の空旅はどう変わるか・その1
戸崎 肇 プロフィール

ただ、こうした国々のマーケットは過当競争になってきた。今後は新たなディスティネーションの開拓が求められる。そのためには近隣諸国からより遠いところにある国々が対象となってくる。

ここにおいて、優位性はLCCからJAL・ANAなどのFSC(Full Service Carrier)に移ってくる

FSCにとっては、中長距離国際線は「良好な環境」下では高い収益が期待できる。国際線市場においては、外的環境の変化が事業に大きな影響を及ぼす。主なものは為替レートであり、消費者の渡航需要はこれによって大きく影響される。

また、航空会社にとっては燃料調達コストに影響を与えることがある(ほとんどの場合、様々な形でリスクヘッジしているので、すぐに大きな影響が出るわけではない)。また、テロなどによる影響、いわゆる「イベントリスク」もある。

それでも、特にビジネス面での渡航需要はそうした影響に左右されがたく、また利用単価も旅客に比べて高く、FSCは、快適な機内環境の整備をはじめ、いろんな付加的サービスを提供することで顧客の取り込みを図っている。

そして、今は新しい路線の開設競争の段階に入っている。

JAL・ANAの新規路線開拓競争

JALは2010年の経営破綻時に、公的資金を投入することで再生が図られた。そして、世界的に見ても利益率の高い航空会社に生まれ変わった。

これに対し、ANAはJALへの肩入れが不当なものであり競争環境をゆがめるものであったとし、ANAに対する補償的政策の実施を求めた。

その結果が「ドル箱」である羽田空港の国際線の発着枠のANAへの傾斜配分であったし、JALに一定期間、新規路線への就航を認めないといった「8.10ペーパー」であった。

このペーパーの効力は2017年3月までであった。ANAはこの期限後も引き続きJALに行動制約をかけるべきだと主張し、政治活動を繰り広げたが、最終的には当該期日で失効した。

とはいえ、JALはそれを機に堰を切ったように新規路線の開設を開始したわけではなく、慎重に開設を行っている。そして、メルボルンやハワイ・コナ線などを開設してきた。

優遇されたJAL(photo by Gettyimages)

この間、ANAも積極的に国際線を展開してきたが、JALの動きを受け、さらに国際線拡大を積極的に進めようとしている。

今年9月にはオーストラリアのパースに新規就航する予定である。パースは西オーストラリア州の州都であり、オーストラリア第4の都市である。豊かな自然に恵まれ、すばらしい観光地ともなっている。

また、新規開設だけではなく、2018年度にはバンコク線を増便するなど、既存路線の利便性の向上にも努めている。

インドをめぐる争いがビジネスにもたらすもの

現在、JAL・ANA間での戦いが激しくなっているのがインド市場である。インドは経済成長と規制緩和政策の推進によって、国内航空市場が急速に発達を遂げている。この需要を国際線につなげることが目的だ。

ANAは今年の秋にチェンナイ線を就航させる予定で準備を進めている。ANAはすでにムンバイ、デリーに乗り入れており、これでインドでは3都市目の乗り入れとなる。

チェンナイはインド第4位の人口があり、「南アジアのデトロイト」とも称され、自動車産業や情報産業が盛んであり、ビジネス需要が期待できる。ビジネス需要は観光需要よりも価格弾力性は低く、高く安定した収益が望める。

これに対して、JALは2020年の夏ダイヤまでにバンガロールへの路線をデイリー(毎日就航)で開設すると発表した。バンガロールは「インドのシリコンバレー」と呼ばれ、IT産業が発達しており、自動車、バイオテクノロジーも盛んである。

どちらも日本との間の行き来だけではなく、インドから日本を経由して北米に移動する、あるいはその逆の需要の取り込みをも狙っている。

地理的に見たJAL・ANAの国際航空戦略上、現状において最も重視されているのが北米とアジアを結ぶ乗り継ぎ需要である。インドは、その中でも特に潜在需要が大きく、成長が期待できる。

こうした路線ネットワークの拡大は、インドという巨大市場におけるビジネスチャンスを広げることになる。