大坂選手の国籍問題は「暗黙の了解」で収めるほうがいい

急いで回答を迫る必要はない

マイナスにしかならない議論はやめにして

プロテニスの四大大会で、昨年の全米オープン、今年の全豪オープンの女子シングルスを制した大坂なおみ選手(21)の目覚ましい活躍に伴って、日米両方のバックグラウンドを有する彼女の国籍問題がにわかに注目を集めている。

しかし、現時点で交わされる意見の多くは、日本の国籍法の現状からすれば、首をかしげたくなるものも多い。この状況が続くことは、大坂選手にとっても、日本社会の大坂ファンにとっても、マイナスにしかならない。議論はここで収めるべきである。

大坂選手は日本・大阪で生まれ、3歳のときに米国に移住した。大坂選手の父親はハイチ系米国人のレオナルド・フランソワさん。来日して英語教師をしていたとき、母親の大坂環さんと出会った。大坂選手は米国で育ち、いまも米国に拠点を置いている。国籍は、日本と米国の2つの国籍を保有していると見られている。

両親の国籍を受け継いだ二重国籍の子供は、22歳の誕生日までに、どちらからを選択することが国籍法で定められている(同法14条1項)。1997年10月生まれの大坂選手にとってのタイムリミットは今年10月にやってくる。

そのため「大坂選手が日本か米国、どちらの国籍を選ぶのか」という問題が、全豪オープン制覇の快挙に加えて、2020年の東京五輪での活躍への期待も加わり、一層の関心を集めていることは、ごく自然な成り行きでもある。

一方、大坂選手の国籍問題が注目される伏線には、一昨年に起きた蓮舫・元民進党代表の国籍問題があるのは間違いない。筆者は当時、蓮舫氏の問題の取材に深く関わり、その経緯については、拙著『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)で詳しくまとめている。その後、弁護士ら有志と一緒に国籍問題に関する研究会を立ち上げ、国籍問題を考えるシンポジウム「『二重国籍』と日本」を昨年4月に開催した。

その経験からはっきりと思うのは、「これ以上、大坂選手の国籍問題を騒ぎ立てることは、日本社会にとって何のメリットもない」ということだ。

とりわけ大坂選手や家族に過度のプレッシャーを与えてしまう恐れは大きい。筆者が、大坂選手の国籍問題について、これ以上の議論を望まない理由を、以下、説明していきたい。

 

「すぐ解消すべき」は誤解に基づく思い込み 

法的な部分をまず整理すると、日本には「国籍唯一の原則」があるとされるが、あくまでも理念としてであり、国籍法にはそのような明文規定はない。逆に、国籍法には、国民が複数の国籍を持つことを認める条文が存在している。「重国籍=違法=すぐ解消すべき」という考え方は、誤解に基づく思い込みなのである。

日本では、父母のどちらかが日本国籍であれば日本国籍を取得でき(国籍法第2条1項)、もう一方の親の本国法が父母両系血統主義であれば、原則、子供は複数国籍を持つことができる。このほか、外国籍の人が日本国籍を取得する場合も、ブラジルのように国籍離脱を認めない国があり、その場合はそのまま帰化を認めている。

外交関係がない台湾については、結婚などで台湾の中華民国国籍を取得した日本人に対し、台湾側が発行する書類の有効性を認めない日本政府は、日本国籍の離脱を認めていない。

つまり、重国籍者が日本で現れることについて、日本政府は必ずしも防止しておらず、容認的な態度を取っているという客観的な現実がある。