中国・少数民族の少女が書いた「作文」が引き起こした悲劇的結末

1億人超を苛む絶対貧困国家の姿
北村 豊 プロフィール

涙を誘ったから報復される

この「最も心が痛む作文」にはもっと救いようのない結末が待ち構えていた。

2015年当時の中国メディアの報道を整理するとこうなる。

1)ウクウイムは凉山彝族自治州越西県普雄鎮に所在する「宝石小学校」の4年生で、2015年時点では12歳であった。彼女の家は越西県普雄鎮の中心から4kmほど南下した且托村にあり、彼女の父親と母親はそれぞれ2011年と2013年に病気で死亡していたため、家には祖父母、姉、兄、さらに2人の弟(10歳と5歳)がいて、彼女を含めて7人家族だった。2015年当時は姉と兄が生活費を稼ぐために外地へ出稼ぎに行っていたので、ウクウイムは2人の弟の面倒を見るだけでなく、老齢の祖父母に代わって家事や豚の世話、農作業まで行っていた。
2)凉山彝族自治州は中国有数の貧困地区であり、働き手の父親を2011年に亡くしたウクウイムの家は想像を絶する程に困窮していたことが想像できる。彼女が書いた作文「涙」は2013年に母親が病に倒れてから亡くなるまでの経緯を描写したものだが、そこには医療費の支払いに苦慮して自宅で死ぬことを選択し、やむなく退院した母親の悲しみが見て取れる。
3)両親が相次いで死亡したので、越西県政府は2014年10月からウクウイムの家の子供5人に対して1人当たり毎月678元(約1.1万円)を孤児生活補助金として支給していたので、ウクウイムの家では祖父母の年金補助を加えて毎月合計3540元(約5.8万円)の支援を受けていた。しかし、これでは生活ができないことから、姉と兄の2人は外地へ出稼ぎに出ていたのだった。
4)ウクウイムの作文「涙」を最初にネット上で発表したのは、凉山彝族自治州の首府である西昌市に本部を置く民間の慈善組織「索瑪慈善基金会」の理事長である黄紅斌であった。黄紅斌は2015年7月15日に宝石小学校を訪問した際に壁に貼られていた児童の作文の中に「涙」と題するウクウイムの作文を発見した。この作文はウクウイムが書いた後に担任教員が若干の手直しを加え、それをウクウイムが清書したものだった。この作文を読んだ黄紅斌は担任教員の案内でウクウイムの家を訪ね、彼女の生活状況を確認した上で当該作文をネット上で発表したのだった。
5)ウクウイムの作文が黄紅斌によって索瑪慈善基金会の名義でネット上に発表されるや、その反響はすさまじく、ウクウイムの悲惨な生活に同情を寄せる人々が次々と索瑪慈善基金会宛に寄付金を送り、8月5日までに寄付金の総額は80万元(約1300万円)を超えた。索瑪慈善基金会はこの寄付金の一部を使ってウクウイムの姉と兄を出稼ぎから呼び戻した上で復学させ、5人の子供たちが勉学に励めるように環境を整備した。残った寄付金は索玛慈善基金会の活動目的である貧困な彝族家庭の生活改善や彝族児童・生徒の学習環境改善に使用された。
6)索玛慈善基金会は数十ヵ所の学校建設を支援しているが、地元の彝族の子供たちが劣悪な環境での学習を余儀なくされていることから、自分たちが運営する学校として1000万元(約1億6300万円)の資金を費やして「索玛花愛心小学校」(以下「愛心小学校」)を建設した。当初の地元政府との約束では愛心小学校の建設が終わった段階で、地元政府が愛心小学校を引き受けて政府の管理下に置くということであった。しかし、いざ愛心小学校が完成すると、地元政府は手の平を返すように態度を急変し、愛心小学校が学校運営の正式な手続きを行っていないとして、閉鎖を命じたのだった。愛心小学校は2018年下半期から教育活動が禁止され、今や再開の希望も途絶えているのが実情である。

索玛慈善基金会が資金負担をしてまで愛心小学校を建設したのは、小学校が完成したら地元政府が引き受けて運営することを約束したからだった。

 

しかし、その約束をほごにして愛心小学校の閉鎖を命じたのは、地元政府による索玛慈善基金会に対する復讐だった可能性があると、米国ワシントンに本部を持つ「ラジオ・フリー・アジア」の中国語サイトが2019年2月1日付の記事で報じた。

その理由は、索玛慈善基金会の黄紅斌がウクウイムの作文をネットに流さなければ、ウクウイムが作文に書いたような彝族の極貧生活は中国社会にほとんど知られずに済んだのに、作文により世間の注目を浴びたことで、地元政府は多大な迷惑を被ったというものであった。

先述したように、凉山彝族自治州の住民1人当たり平均の可処分所得も生活消費支出も全国平均より大幅に低い。

地元の越西県政府にしてみれば、それが普通なのだから、何も騒がず静かにしていれば良いのに、なまじ索玛慈善基金会が子供の作文を使って彝族の困窮生活を外部へ訴えたために、余分な手間と出費が必要になり、多大な労力を必要とした。

だから、その仕返しに、索玛慈善基金会が1000万元もの資金を費やして建設した愛心小学校の閉鎖を命じたのだった。

このように「事が一段落したら仕返しする」ことを中国語で“秋后算賬(秋の取り入れ后に清算する)”と言うが、これは正に“秋后算賬”であった。ただし、無駄に費やされたのはウクウイムに同情した人々から贈られた善意の寄付金であった。