2015年に中国で「“最悲傷作文(最も心が痛む作文)”」と呼ばれて評判になった文章があった。
それは四川省凉山彝族(イぞく)自治州に居住する12歳の彝族の少女で、小学4年生の“ムクイウム(木苦依五木)”<中国語名:柳彝(りゅうい)>が中国語で書いた漢字で300字余りの「涙」という題名の作文だった。
それをできる限り忠実に翻訳してみる。
4年前に父親を亡くし、今度は母親を亡くして孤児となった少女が、淡々と描いた母親の発病から逝去までの過程は読む者の胸を打つ。
作文を書いたウクウイムの属する彝族は中国政府が認定する55の少数民族の1つで、主として中国の雲南省、四川省、貴州省の3省に居住し、一部はベトナム、ラオスなどにも分布している。
中国で2010年に行われた第6回国勢調査の結果では、中国の総人口は13億3972万人で、その内訳は、主体の“漢族”が12億2593万人で91.5%を占め、少数民族(55民族合計)が1億1379万人で8.5%を占めた。
少数民族中の彝族は約871万人、総人口に占める比率は0.65%であり、55の少数民族中における人口順位は第6位だった。
ちなみに少数民族人口の第1位は1693万人で総人口の1.27%を占める“壮族(チワンぞく)”であり、第2位は1059万人で総人口の0.8%を占める“回族”であった。
彝族は中国最古の民族の1つで、3000年以上前から中国の西南地方に広く分布していたと言われている。彝族は独自の彝族語を話し、「彝文」と呼ぶ独自の表意文字を持ち、特有の風俗習慣を持っている。
ウクウイムが居住する四川省の凉山彝族自治州の戸籍人口は、2017年末の公安(警察)統計によれば521万人で、その内訳は漢族が228万人で全体の44%を占めるのに対して、少数民族は294万人で全体の56%を占め、そのうちの彝族は276万人で全体の53%を占めた。要するに、凉山彝族自治州では彝族の人口が最大で、漢族を48万人も凌いでいた。
凉山彝族自治州が発表した『2017年凉山彝族自治州国民経済・社会発展統計公報』によれば、都市住民1人当たり平均の可処分所得は2万8170元(約46万円)で前年比8.5%増、1人当たり平均の生活消費支出は1万8287元(約29.8万円)で前年比7.2%増であった。
農村住民の1人当たり平均の可処分所得は1万1415元(約18.6万円)で前年比1047元(約1.7万円)純増の10.1%増、1人当たり平均の消費支出は8734元(約14.2万円)で前年比8.7%増であった。
また、都市部の最低生活保障受給者は5.7万人で、保障金の支出総額は1.92億元(約31.3億円)であり、農村部の最低生活保障受給者は43.5万人で、保障金の支出総額は9.04億元(約147.4億円)であった。
中国政府の国家統計局が発表した『中華人民共和国2017年国民経済・社会発展統計公報』によれば、中国の都市住民1人当たり平均の可処分所得は3万6396元(約59.3万円)で前年比8.3%増、1人当たり平均の生活消費支出は2万4445元(約39.8万円)で前年比4.1%増であった。
また、農村住民1人当たり平均の可処分所得は1万3432元(約21.9万円)で前年比8.6%増、1人当たり平均の生活消費支出は1万955元(約17.9万円)で6.8%増であった。
国家統計局の数字と凉山彝族自治州の数字を比較すると表の通りになる。
これから分かることは、凉山彝族自治州の数字は、可処分所得と生活消費支出のいずれをとっても中国全体の集計値である国家統計局の数字よりも大幅に小さく、凉山彝族自治州の住民が都市部、農村部を問わず平均よりも貧しいことを意味している。
さらに、都市部と農村部を合計した最低生活保障受給者は49.2万人だが、その大部分が漢族以外の少数民族だと仮定すれば、少数民族294万人中の16.7%を占めることになるが、この数字は貧困にあえぐ人口がいかに多いかを物語っている。