「イスラム国」に拷問を受けて障害を負った男が「今、思うこと」

悪夢のような3日間だった
小松 由佳 プロフィール

「生きるためには希望が必要だ」

情勢が安定したらシリアに戻れるよう、ジャーラッラーは避難先を国境のレイハンルに選んだ。体が動かしづらかったが、彼は足を引きずりながらも歩くことができた。しかしその後、さらなる不運が彼を襲った。

レイハンルに住んで1ヵ月が経った12月のある日、ジャーラッラーは居間で灯油ストーブ(シリアでソーバと呼ばれる長細いストーブ)をつけていた。

水の入った鍋をその上に置こうとして、彼はバランスを崩し転倒した。床に水がこぼれた。それは些細な出来事のはずだった。

だがそこには古い電気コードがあり、ジャーラッラーは裸足だった。濡れた電気コードが感電を引き起こし、彼は即座に意識不明となった。病院へと搬送されたが、目覚めると体の自由はさらに効かなくなった。

医者は、脳に深刻なダメージが起きたと診断した。1度目はISによる拷問で、2度目は自宅での事故で。〝脳に障害を負い体の70%が動かせない〟彼の診断書にはそう書かれた。

 

それから4年。

理学療法と投薬による治療を受けているが、1日に何度も発作やてんかん、震えに襲われる。脳の検査は一度も受けていない。

検査のためにはアンカラやイスタンブールなどの大都市に行かねばならないが、一家にはその移動費も治療費もない。

欧米では、彼と同じケースの患者に治療がなされ、歩けるようになった者もいるという。彼はそのニュースを大切そうにスマートフォンの中に保存していた。

「生きられることに感謝している。だが生きるためには希望が必要だ」

ジャーラッラーは肩を落とす。隠すことのできない深い失望が、彼の表情に露われていた。

ジャーラッラーは妻と妻の母親、2人の子供と暮らしている。国際赤十字協会から難民への生活支援金として、1ヵ月に600TL(約12500円)を得ているが、ジャーラッラーの薬代だけで500TLがかかり、家族の生活を圧迫している(レイハンルでは障害を負った難民の医療費は免除されるが、薬代やオムツ代などは自費で購入しなければいけない)。

一家の生活を養うのはジャーラッラーの妻(30)と母親(52)だ。郊外の農地で綿花の収穫などをして働き、一日30TL(約620円)を得る(彼女たちはシリアでは働きに出たことはなかった。レイハンルでは多くのシリア難民の女性が、働けなくなった夫や息子の代わりに働きに出ている)。

ジャーラッラー・ムハンマド

「生活するためにお金が必要よ。でも働いても働いても足りない」

妻によると、一家の生活費は最低でも2000TL(約41600円)が必要だ。

家賃は電気・水道・ガス代込みで800TL(約17000円)、ジャーラッラーの薬代に500TL(約11000円)、食費とジャーラッラーための備品(オムツなど)、それに子どものための備品を合わせると700TL(約15000円)がかかる。

赤十字協会からの生活支援、妻と母親の給与、そして親戚や仲間からの経済援助や借金によって、一家はなんとか生活している。

希望をこめて〝小さなライオン〟と名をつけた長男は7歳になった。2人の子供たちの成長を間近で見ながらも、ジャーラッラーは父親として家族を支えられず、妻や母親の収入に頼る生活だ。

検査を受け、適切な治療を受けたい。少しでも体を動かせるようになりたい。働き、収入を得たい。そして家族を幸せにしたい。ジャーラッラーは祈り続けている。〝人生を変える変化〟が彼の身に起こることを。

ジャーラッラーが住む部屋のベランダからシリア国境の山が見えた。シリア。その故郷は、今や多くの難民にとってあまりに遠い。

(ジャーラッラー・ムハンマドは脳の治療を受けるための、そして生活を維持するための資金援助を必要としています。支援をいただける方、治療への情報をいただける方は、以下、フォトグラファー小松由佳のホームページよりご連絡をお願いいたします。http://yukakomatsu.jp/
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