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銀行員の未来を変える…金融庁の新方針「探究型対話」が意味すること

『捨てられる銀行』シリーズの著者が解読

「探究型対話」で挑む遠藤金融行政

金融庁史上、「最強長官」と恐れられた森信親から遠藤俊英に代替わりして、半年が過ぎた。

森体制は、金融行政の究極的な目標を金融機関の健全性ではなく、その先にある企業・経済の成長、国民の健全な資産形成だと宣言し、金融行政の力点を「形式、過去、部分」から「実質、未来、全体」に大転換させた。

最も象徴的なのは、金融庁が1999年の導入から約20年間、金融界のルールであり続けた金融検査マニュアルを2019年4月以降、廃止することだ。不良債権処理時代の悪夢から時が止まっていた日本の金融はようやく次のステージに進み始めるのだ。

2018年8月にスタートした遠藤金融庁は森路線を継承、発展させるとし、その方策として「探究型対話」を打ち出した。

2月13日上梓の『捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』で詳しく述べたが、現場にこだわり、結果にこだわる現場主義者・遠藤が示した「探究型対話」は、今後の金融行政の未来を左右する最重要なテーマとなる。

例えば、健全性が危ぶまれる銀行に対して、金融庁が行政措置を講じる「早期警戒制度」の見直しについても、今後は探究型対話が判断の重要なポイントとなるだろう。

1998年4月以降、金融庁(当時は金融監督庁)は、銀行の自己資本比率が、国際業務を手掛ける国際統一基準行は8%、国内専業の国内基準行は4%を下回った場合、早期是正措置で対応してきた。

具体的には、自己資本比率の低下に応じて経営改善計画の提出、配当や役員賞与の禁止、総資産圧縮、資本増強策、大幅な業務縮小、合併、廃業、業務停止という具合に、段階的に厳しい行政措置をとってきた。しかし、それは基本的に数値ありきのルール(形式)ベースの域を出るものではなかった。

過去の活動の結果が数値となって表れるにはタイムラグが発生する。常に数値は過去のものであり、未来を予測する上で、数値の過信は禁物だ。数値化されてからの対応では後手にまわる。

金融庁が機動的な行政措置を目指すのであれば、過去や形式ではなく、未来志向、実質重視で手を講じていかなくてはならない。

だからこそ、金融庁は眼前の数値だけではなく、「経営は持続可能なビジネスモデルを構築できるのか」「現場と経営は乖離せずに改革に臨んでいるのか」「経営は自らの課題を正しく認識し、未来に向けて改善しようとしているのか」などの定性的情報こそ、粘り強い「探究型対話」を通じて検証しなければならない。

検査マニュアルに基づく金融庁検査の時代は、頭取が検査担当の部下に対して「良きに計らえ」と指示すれば済んだが、探究型対話では、まったく通用しない。

「トップとして、あなたはふさわしいのか?」が徹底的な対話で問われることになる。無論、金融庁の検査官にその力量があるのかも問われる。

検査マニュアル廃止、その先は…

今、銀行が、そして金融マンが最大の関心を寄せるのが検査マニュアル廃止後の新たな融資管理のあり方だ。

担保や保証に依存しきった銀行が、取引先の事業性や将来性、財務情報のウラを読み込む力を失った最大の要因は、検査マニュアルに盛り込まれた「別表」にある。

別表とは、貸出先の格付けや貸出債権の引当・償却を決めるルールそのものだ。貸倒引当金を積めば、自己資本を毀損するため、銀行を最も恐れさせた。1998~99年に策定された別表は当時の時代の空気を反映している。

それは、過去の返済能力によって格付けが決まり、過去の倒産率・貸倒実績率によって引当・償却額を算出する仕組みだ。返済は「未来」であるにもかかわらず、「過去」が返済可能性を決めてきたということだ。

これは不況倒産による不良債権が未来もしばらく続くという「定常化」を前提として別表が設計されたためであった。

非常事態専用のシステムであったのに、不良債権問題が終わっても、「過去」にとらわれた別表を金融庁は廃止する決断ができず、約20年間もズルズルと「非常事態」を続けてきたのだ。副作用がまん延するのは当然だ。

新たな融資管理の全容は3月までに示される見通しだが、明らかなのは「過去」ではなく「未来」に向けて融資管理をしなければならないという点だ。観念論ではない。

実際、国際会計基準(IFRS)第9号でも米国会計基準でも、金融商品の将来損失をより厳格に計上する方向で見直しが進んでいる。

各国の金融当局でつくられ、銀行の自己資本規制を決めるバーゼル委員会も将来予測を重視した引当の議論を進めるはずだ。

世界の金融ルールの潮流が「過去」ではなく「未来」をより重視している中、日本だけが「過去」へと逆行する訳には行かない。

融資管理で言えば、過去の返済能力・過去の倒産率・貸倒実績率ではなく、将来キャッシュフローに引当・償却の根拠が移行するだろう。

金融庁は検査マニュアルに基づく現行の融資管理からの移行期間を設けるとみられるが、将来キャッシュフローが読めない銀行・銀行員は必然的に生き残りが難しくなるだろう。

融資の根拠も将来キャッシュフローへと変わってくる。

単に「資金需要がある」ではなく、それは運転資金なのか、設備資金なのか、赤字資金なのか、という資金使途が問われる。そして、どのようなキャッシュフローの見込みに基づいて、どのような形態・期間の融資をするのか。その根拠を求められる。