ブランドを身に着けている人のほうが、なぜ「人生得をしがち」なのか

日本人の脳に迫る⑮
中野 信子 プロフィール

自意識過剰は鋭敏な証拠

若い時代に見られがちですが、誰かをからかうのに、関係のありそうなことをわざわざその人の周りで曖昧なかたちで口にし、その人が気にして振り向いたり応答したりするのを「自意識過剰~」などといって揶揄するいじめのひとつの類型があります。

実際には、これは脳が正常に機能しているだけなので、特に揶揄の対象になるような応答ではありません。しかしながら、そうした正常な応答についても鋭敏にフィードバックが起こり「その場に適切な応答であったかどうか」を脳が判定しようとして、適切でなかったかもしれない、と判断されてしまうと、それが羞恥心というかたちで表出されることがあるのです。

 

たまたま誰かの悪意によってそういう目に遭ってしまったら、鋭敏な自意識は健康な脳の働きの証拠なのだから特に恥ずかしいことではない、ということを思い出してほしいと思いますし、むしろそうした悪意のほうにこそ、やや残念な脳の特徴である未発達さ(幼稚さ)が見て取れるということも知っておいていただきたいことです。

ともあれ、自意識と「美」の例のように頻繁に変更が加えられる価値基準が関係しているということは大変興味深いデータです。

内側前頭前皮質は、自分の社会的な位置づけを確認するために常に活動している領域なのですが、「カッコいい」の基準を司っているだけではなく、無自覚のうちに私たちの行動を抑制し、行き過ぎた利己的な振る舞いを回避させるという機能を持っています。いわば「良心」の領域であり、その社会における倫理規範と照合して適切な行動を取らせ、反社会的な振る舞いをさせないようにする働きを持っているのです。

日本人の消費サイクルが短いわけ

ただ、中にはこうした規範に対してあまり敏感に応答しないタイプの人がいます。つまり、この内側前頭前皮質の活動が活発でないごくわずかの人たちです。

これらの人たちは、いわゆる「サイコパス」と呼ばれる一群の人々ですが、変わる価値基準に対してそれを意に介さず堂々と振る舞うので、あたかもその人たちが基準であるかのような印象を人々与え、一定数の人から「カッコいい」人物であると支持を得ることがあります。

こうした人物を支持するのは、自意識の領域にネガティブフィードバックのかかりやすい若年層に多く見られます。若いあいだはサイコパシーの高い人間を性的パートナーに好むけれど、年齢を経ると刺激的な相手より信頼のおける相手を選好するようになるという変化が起こるのはこのためだと考えられます。

日本は、サイコパシーの高い人間の割合がどちらかといえば少ない国です。裏を返せば、内側前頭前皮質の機能が高い人がより多く、「カッコいい」や「倫理」の基準の変化する頻度が比較的高い風土であると言えます。

5年前にはさほど問題にならなかったことが、不適切であると過剰に非難を浴びたり、2年前にカッコよかったものがあっという間にダサくなったりしてしまう。こうした消費のサイクルは、内側前頭前皮質と自意識の関係からさらに研究が進んでいくことでしょう。

脳のある部分の機能を計測すれば、その活動の大きさから、欲求の強さと価値の高さを見積もることができる――これが脳科学の一領域である神経経済学の考え方です。脳は、本人が自覚していない場合でも、常にまわりの対象物について価値判断を行っています。そして、無自覚的な行動をひそかに誘導しているのです。

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