ブランドを身に着けている人のほうが、なぜ「人生得をしがち」なのか

日本人の脳に迫る⑮
中野 信子 プロフィール

ブランドに左右される脳

あとで説明しますが、ブランドは、強い感情と結びついた記憶を呼び起こすことで、その商品やそれにまつわる経験に価値を付与します。

けれども、ブランドは脳ではどのように認知されているのでしょうか。 

ブランドがブランドになるには、何が必要なのでしょうか。

有名な実験に、「ペプシチャレンジ」というブランドが脳に与える影響を調べた研究があります。コカ・コーラとペプシコーラを比較し、ブランドについての知識が味や選好を変容させるということで話題になった、広く知られている古典的な研究です。
これを脳科学的に検証しようという研究がアメリカの脳科学者モンタギューらによって行われています。

 

実験ではまず、ペプシコーラとコカ・コーラを被験者に飲んでもらい、味の好みとブランドの好みが一致するかどうかを調べました。その結果、自分が好きだと思っているブランドと、ブラインドテストで調べた味の好みはそれほど一致するわけではない、ということがわかりました。

つまり、コカ・コーラ好きだと自認して公言していても、ラベルを見せずに中身だけ飲ませるとペプシコーラを選ぶ、という人がそれなりにいた、ということになります。

次に研究グループは、被験者にコカ・コーラとペプシコーラのそれぞれをブランド名なしで飲んでもらい、その最中の脳の活動をスキャンしました。主観的な快楽を感じるときに活動すると考えられている脳機能領域は腹内側前頭前皮質ですが、この部分の活動は、被験者があらかじめ報告した自分のブランドの好みとはあまり一致しませんでした。ブランドと味を、脳はどうも別々に処理しているようです。

このデータをもう少し掘り下げるために、ブランド名がわかっている状態で被験者にそれぞれを飲んでもらって、そのときの脳をスキャンしました。すると、コカ・コーラを好きだと答えた人がコカ・コーラと知って飲むときには、記憶・情動の回路が活性化していたのです。

一方で、ペプシコーラではこのような反応が見られませんでした。コカ・コーラに特異的に見られたこの反応は、情動に直接訴えかけて判断を変化させるということで、エモーショナル・ブランディングと呼ばれています。

研究グループはさらに、腹内側前頭前皮質を損傷した患者に対して同じ実験をしました。上で説明したとおり、この部分の活動は、主観的な快楽、そして感情的記憶と結びついています。すると、この患者たちは、ブラインドテストでの味の好みと、ブランド名を明かした場合の好みが一致したのです。

ブランドの好みに判断が左右されてしまうのを私たちはあまり良いことのようには思っていませんが、ブランドを好むのも大事な脳の働きのひとつと言える、ということになるでしょうか。

うつろう「美」の基準

しかし、素晴らしいブランドも過剰に身に着けすぎたり、さほどカッコよくない人が好んでいることがわかったりするなど、時と場合によってはダサく感じられることもあります。

また、ブランドイメージを毀損するネガティブなアクションやステートメントが何もなかったとしても、その価値が時間を経て色あせてしまい、相変わらずそうカッコいいわけではなくなってしまうということもあります。

もっと言えば、「美人」の基準も時間軸、空間軸に沿ってかなり大きく変化する価値のひとつです。その変化の激しさは、「おいしさ」などのあまり変わることのない基準とはやや異なるように感じられます。

こうした変化する価値の評価は、脳のどこが行っているのでしょうか。

あまり変わらないおいしいという価値や、時間を経てもさほど変わらない食品などのブランドの価値は、ここまで述べてきたように腹内側前頭前皮質が判断しています。

変わる美の基準をどこが判定しているのかを調べるために、クウォーツとアスプは「カッコいい」という価値に着目し、20代前半の学生を被験者として脳の活動を測定しました。

まず、学生に、香水から家電に至るまでさまざまなジャンルから、カッコいいものとカッコ悪いものを選んで200個以上の画像を作成してもらいました。次に、別の学生たちを被験者として、それらの画像を見ているときの脳の活動をスキャンします。その後、見てもらった画像についてカッコいいからカッコ悪いまで点数をつけてもらいました。

すると、カッコいい、と学生たちが判定した画像について、内側前頭前皮質が活性化していることがわかりました。この部分は、空想、計画、内省的な思考をしているときに活性化する部分であり、「自意識」に深くかかわっていることが知られています。

カッコいいかどうか、という判断と、自意識が関連している、という発見は何を意味するのでしょうか。

内側前頭前皮質が司っていると考えられるのは以下のような機能です。この部分は、自覚していなくても、自分の周囲で起こっていることを常にモニターしており、自分と関係の深いことであればできるだけすばやくこれを検出して反応させようと準備しています。自分との関連がある一定の値を超えると、そこへ自動的に関心が向くようにスタンバイしているというわけです。