ブランドを身に着けている人のほうが、なぜ「人生得をしがち」なのか

日本人の脳に迫る⑮

独裁者ゲームで見えたブランドの影響力

「独裁者ゲーム」という有名な課題をご存じでしょうか。これは、利他性の程度を定量的に検討できるということで、心理実験などでよく使われる課題です。

分配者と受領者の二者で行われ、分配者が掛け金の配分率を決定し、受領者はその決定に従って受け取るだけという単純なルールです。

この課題では、受領者は配分率の決定に対して何をすることも言うこともできません。独裁者ゲームでは、分配者は掛け金を独占するのが最も合理的な選択です。ですが、多くの場合、受領者に対して2割以上の配分比を決定することがわかっています。

 

被験者のブランドへの反応を調べるために、この独裁者ゲームをやってもらいます。

20枚の1ドル紙幣を持たせた被験者が、見知らぬ相手に対していったい何枚渡すのかを観察するのですが、この実験は相手がブランドのロゴなど何もついていないセーターを着ている場合と、ブランドのロゴつきセーターを着ている場合で、渡す枚数がどう変化するのか、ということがポイントです。

さて、ブランドのロゴの有無により、独裁者ゲームの結果はどう変わったのでしょうか。

ロゴありの場合、ロゴなしの場合に比べて、実に25%も多い金額が、相手に与えられたのです。 

街を歩いているとき、にこやかに近づいてきた見知らぬ人から「アンケート調査にご協力をお願いできませんか、粗品を進呈します」などと話しかけられた経験を誰でも一度や二度は持っているのではないかと思います。

こうしたアンケートに応じる人は実際、どのくらいいるのでしょうか。

オランダ、ティルブルグ大学のマイヤーズらの研究によれば、近づいてきた人の服装によって、アンケートに答えてくれる人の割合が変わったといいます。

まったく知られていないブランドのロゴがついたセーターを着ていた場合には、アンケートに答えるのを承諾した人は約14%でした。だいたい7人に1人くらいです。

しかし、ラコステのワニのロゴがはっきりわかるセーターを着ていた場合には、なんとアンケートに答えてくれた人の割合が約52%になったのです。

実に半分以上の人が、調査員が見知ったブランドのセーターを着ていただけで、協力的な態度を取った、ということになります。

寄付金の額についても同じような結果が報告されています。

ここでもなんと、見知ったロゴ入りのセーターを着て依頼した場合には、そうでない場合に比べて、寄付金の額が倍になったのです。

なぜ人はブランド物を欲しがるのか

有名ブランドのロゴ入りセーターを着ている人は、それを買えるだけの経済的余裕のある人なのだろうという推測ができますから、この結果は不思議なことが起きているようにも見えます。

より持たざる相手に何かを与えたいという気持ちが生まれるわけでもなく、より持てる相手に妬みを感じるなどして配分率を下げたりするわけでもなかったのです。

それでは「裕福な相手に、より多くを与える」という一見不合理な選択を私たちがしてしまうのは、いったいなぜなのでしょうか。

従来の、消費についての社会学的な理論ではこれをうまく説明することができませんでした。

たとえば、フランスの社会学者ブルデューは、消費を促進するのはディスタンクシオン(卓越性)への欲求であると分析しています。文化財の消費、またそれらへのアクセス権の独占を目的として行われる経済行動は、卓越化という利益を期待して行われるという考え方です。

また、自己肯定のために人間はブランドを必要とする、という主張や、いつか訪れる死への怖れを超克するために金銭的価値への執着が生まれるとする立場もあります。
これらの理論が展開するような、地位をめぐる競争に勝利し、自分が劣っているという屈辱を晴らすために消費が行われるのだ、という主張について考察を加えてみると、消費は競争を助長し、人間同士の社会的距離を広げる行為である、ということになります。

しかしながら、これまで紹介したいくつかの実験は、ブランド品の消費によってより相手と協調する結果を生むものばかりですから、自分を相手に対してできるだけ優位に持っていこうという動機に着目して強調するこうした理論を適用しようとしても、かなり説明に無理が生じてしまうと言わざるを得ません。

しかしここで「社会的選択」という概念を導入すると、この現象をうまく説明できる可能性があります。社会的選択というのは、競争でなく協調するという戦略をとる場合、協調する相手をどう選ぶのか、その選び方のことです。

「ブランドのロゴを身に着けている」ということは、その人物がすでに一定の社会経済的地位を手に入れているというサインです。つまり脳は、ブランドのロゴという社会経済的地位の高さを示すサインを見て、「互恵関係を築けば利益の増大が見込める」と判断し、その相手を「社会的パートナーとしての価値が高い」と読み替えてより多くの投資をする、と解釈することができます。