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「不都合な現実」をめぐる、科学とリベラルの対立の根本原因

「言ってはいけない」事実をどう扱うか

インテレクチュアル・ダークウェブとは何か?

この原稿を書くことになったのは、何人かの知り合いから「「インテレクチュアル・ダークウェブ」ってお前のことだろう」といわれたからだ。最初はなんのことかさっぱりわからなかったが、出典は作家・木澤佐登志氏が「現代ビジネス」に寄稿し話題になった「欧米を揺るがす「インテレクチュアル・ダークウェブ」のヤバい存在感」だった。

木澤氏の近著『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』は「闇」の側からインターネットの「自由」をめぐる思想闘争を描き、バーチャル国家を遠望する野心的な著作で、その膨大な知識には驚かされるばかりだ。そこには以下の記述がある。

「ダークウェブとは、通常と異なる手段によってしかアクセスできないインターネット上の特定の領域を指す。特殊な技術によりアクセスした者の身元を秘匿化することができるので、法の手が及ばない形であらゆるアウトローな悪徳が営まれている。違法薬物と児童ポルノが蔓延し、麻薬の売人、ハッカー、詐欺師が暗躍するインターネット・アンダーグラウンドである」

インテレクチュアル・ダークウェブ(Intellectual Dark Web:以下I.D.Wと表記)は第5章「新反動主義の台頭」で扱われていて、英語圏のネット論壇には「暗黒啓蒙(ダーク・エンライトメント)」とも呼ぶべき思想的潮流が生まれつつあり、それがトランプを支持する「オルタナ右翼(白人至上主義)」に流れ込んでいるとする。

暗黒啓蒙とは、「普遍的な「理性」の光のもと人類は進歩へ向けてたゆまず歩んでいく」とする17世紀以来の西洋の啓蒙主義に背を向け、人間主義(ヒューマニズム)やリベラリズムを否定し、とりわけ「ポリティカル・コレクトネス(PC)/政治的正しさ」を嫌悪する。そんな思想的党派がいま、欧米のアンダーグラウンドで大きな影響力を持つようになったのだという。

 

I.D.Wの特徴は、科学的エビデンスに基づいて、現代のリベラリズムではタブーとされているジェンダーや人種の差異などの「不都合な現実」を暴き、PCのコードを蹂躙することだとされる。これによってI.D.Wはリベラルから「人種主義(レイシズム)」「差別主義者」のレッテルを貼られ、アカデミズムのメインストリームから排除されている。――このあたりが、私の著作との類似性を想起させたのだろう。

これは興味深い見解だが、その当否は脇において、ここではいくつか補足を述べてみたい。これによって『ダークウェブ・アンダーグラウンド』の思想的背景がより明瞭になるだろうし、拙著『もっと言ってはいけない』との関係も理解できるだろう。