『いだてん』で主演を務める中村勘九郎〔PHOTO〕gettyimages
# 芸能 # エンタメ

『いだてん』から考える歌舞伎役者と大河ドラマの深い関係

浮かび上がる襲名の法則!?

歌舞伎役者が大河に出るメリット

『いだてん』の主演は中村勘九郎で、久しぶりに歌舞伎役者が「主演」している大河ドラマとなった。

その前に歌舞伎役者が主演した大河ドラマは、15年前の2003年の『武蔵』で、市川海老蔵が武蔵を演じた(当時は市川新之助)。

その間も、準主役的なものとして、2007年の『風林火山』に市川亀治郎(現、猿之助)が武田信玄役で出たのをはじめ、脇役としては毎年だれかしら、歌舞伎役者が出ている。

昨年の『西郷どん』にも、尾上菊之助が出ていたし、2017年の『おんな城主 直虎』には、市川海老蔵、尾上松也らが出ていた。今年の『いだてん』にも、勘九郎の他に、中村獅童も出ている。

歌舞伎役者は、江戸時代とそれ以前の時代の物語を日常的に演じているので、歴史ドラマに出演するにはふさわしい。

役者の側にはNHKの全国放送で主演すれば知名度が上がるというメリットがある。

役によっては、今後の歌舞伎の舞台の参考にもなるだろう。

もっとも、出演料はNHKなのでそう高くはなさそうだし、主演ともなれば1年にわたり歌舞伎の舞台に出ることができないというマイナス面もある。

『いだてん』は視聴率が高くないので、知名度アップにはそう貢献できないかもしれない。近代ものなので、今後、勘九郎が歌舞伎の舞台で同じ役を演じる可能性はゼロに等しい。

はたして歌舞伎の舞台を犠牲にしてまで出る価値があったのかと思わないでもないが、もう始まったのだから、とやかく言わずに見ている。

 

宮藤官九郎と歌舞伎

宮藤官九郎と中村勘九郎とは、2009年12月の歌舞伎座での『大江戸りびんぐでっど』で顔を合わせている。これは前の歌舞伎座の「さよなら公演」のひとつだった。

当時の12月の歌舞伎座は18代目勘三郎が座頭となる月だったので、彼がやりたいことをやれた。宮藤官九郎に新作を書かせ、演出もさせたのは、当然、勘三郎の意向だ。これに、勘九郎(当時、勘太郎)も出演していた。

この新作『大江戸りびんぐでっど』は毀誉褒貶で、朝日新聞に高齢な女性から「こんなものを歌舞伎座で上演するなんて嘆かわしい」という趣旨の投書が載ったほどだった。

勘三郎としては、批判は計算済みでの、新しい試みだったと思う。だから、批判に屈することはなく、今後も宮藤官九郎に書いてもらうというようなことを言っていた。

実際、歌舞伎座ではないが、宮藤官九郎は2012年にコクーン歌舞伎『天日坊』、2015年に海老蔵主演の六本木歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』を書いている。『天日坊』は勘三郎存命中の企画だから、勘三郎が生きていれば、この後も宮藤官九郎とのダッグがあっただろう。

『大江戸りびんぐでっど』は、笑えるシーンは多かったし、社会風刺もきいている、面白い演劇だった。しかし、明らかに客層とあわず、ギャグも空回りしていた。

演劇は劇場によって、向くものと向かないものとがある。

とくに歌舞伎座のような劇場は、劇場に固有のファンがいるし、そもそも歌舞伎のファンは古いものが好きなのだから、そこに奇抜で新奇なものを持ってきても、すべってしまうのだ。

同じことが、大河ドラマにも言える。昔からの固定ファンが多く、源氏と平家の戦いと、信長・秀吉・家康と、忠臣蔵と、幕末ものを好む。

『いだてん』はドラマとしては面白いが、大河ドラマという枠とはミスマッチだ。

近代ものという素材、宮藤官九郎という脚本家、ともに高視聴率がとれそうもない要素である。

しかし、そんなことは最初から分かっていたわけで、あえて冒険に出たはずだ。

NHKのプロデューサーに、勘三郎のように、どんなに批判されても跳ね返せる度量があれば、このまま突っ走れ、歴史的低視聴率に終わったとしても、伝説のドラマになるだろう。