〔PHOTO〕金子正志
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農家と醸造家の新たな挑戦、福島産シードルが品評会で銅賞を獲るまで

「果樹王国」の復活を目指して①

提供:三菱商事

「予約1年待ち」伝説のリンゴ農家

「私の人生一番の喜びは、我が子を抱き上げた時。二番目は孫ができた時。そして三番目は、この『シードル』を初めて口に含んだ時。その時の豊潤なフレーバーと香り、濃厚な味は今でも忘れられません」

そう目を細めるのは、東北新幹線・福島駅から車で北に約30分、福島市瀬上町にある「果樹園やまと」の阿部幸弘さん。阿部さんの祖父は福島県でのリンゴ栽培のパイオニアで、阿部さん自身、全国りんごコンクールで金賞を受賞している。また、NHKのラジオパーソナリティを務めるなど、県内では知られた存在だ。

阿部幸弘氏〔PHOTO〕金子正志

福島市は、国内の他のリンゴ産地よりも温暖な地域に位置しているため、代表品種である「ふじ」の開花が早く、収穫時期は11月中旬から12月下旬までと遅い。その分、太陽の恵みを十分に浴びることから、高い糖度とシャキシャキした食感が特徴となっている。

収穫期がお歳暮のタイミングに合致したこともあって、阿部さんの農園で採れる「ふじ」はギフト専門、新規注文の場合は予約1年待ちということも珍しくないほどの人気だった。

〔PHOTO〕金子正志

「福島のために働かなくて何になる」

そんな阿部さんの日常を一変させたのが、2011年3月11日の東日本大震災だった。

「ウチは京都や大阪の方とかなり取り引きいただいていたんですけども、震災後、東京から西の注文がまったくのゼロになりました。このあたり一帯のリンゴ農家はどこも同じような状況で、夜逃げした人もいるくらい。ウチも経営的には完全に行き詰まり、生活も厳しかった。まさか日本で飢餓のような状態を経験するなんて思っていませんでしたよ」

風評が広がる中でも、リンゴは例年通りに実を付けた。行き場を失ったリンゴたちは、福島市に隣接する二本松市の東北サファリパークに寄付したという。

「エサがなくて動物たちが殺処分されると聞いて可哀想で。ウチのリンゴで命が救えるならと、喜んで協力しました」

リンゴ生産者として名を知られていた阿部さんのもとには、他の生産地から「こちらに来てくれないか?」という誘いの声も多くあった。このまま引っ越し福島を離れるか、あるいは廃業してしまうか……そうした葛藤が阿部さんの心を引き裂いたという。

「ただ、それでは自分のプライドが許さなくて。今の時代に生きる自分たちがこれからの福島のために働かなくて何になるって感じがあったんですよ。でも、どうやって前に進めばいいのかわかりませんでした」