もうハンコは必要なくなる? 霞が関「デジタル化改革」の現実味

さまざまな「しがらみ」を振り切れるか

ただ一方で、「個人認証はマイナンバーカードの読み取りで行わずとも、ID/パスワード認証でいいのではないか」という機運も高まっている。以前の記事で筆者も触れたように、国税庁は今年3月の確定申告から「3年間の暫定措置」として、e-TaxにID/パスワード方式を採用することを決めた。

この国税庁の動きは、暫定措置といいながら、一向に普及しないマイナンバーカードに見切りをつけたとも捉えられる。うがった見方をするなら、国税庁がデジタル技術の活用に一歩踏み込んだことが、内閣官房・経産省の背中を押したと言えなくもない。

 

最大の障害は「霞が関の利害対立」

内閣官房が経産省に加勢したことで、実現する見通しとなった法人登記のデジタル改革だが、関係者によると「最大の難関は法務省だった」という。

制度改革そのものに特段の異論があったわけではない。法務省が所管する公証人の仕事が減る、もしくはなくなることが受け入れ難かったらしい。ただ法務省や財務省の中にも、改革派、デジタル化推進派は間違いなく存在する。

今後、行政手続きのデジタル改革が本格化すると、まず省庁の内部で、次に省庁間で、利害対立が多発してくることは間違いない。

経産省と総務省は「IoT推進コンソーシアム」で連携する関係にあるし、先に経産省が公表した「自治体DX行動プラン」も、総務省が容認(ないし黙認)したかたちだ。

しかし、経産省主導で「自治体DX」が進めば、結果としてマイナンバーシステムやLG-WAN(総合行政ネットワーク、全国の地方公共団体をつなぐ情報共有システム)の改革に踏み込まざるを得なくなるかもしれない。そうなれば総務省は面白くないだろう。

あるいは、これは筆者の推測と想像だが、国土交通省が外国人を含む建設労働者のキャリア管理を名目に個人情報の管理に乗り出せば、年金と健保、雇用保険を所管する厚生労働省とぶつかることになる。また、キャッシュレス化の進展は財務省(銀行や印紙を所管)と経産省(クレジットやポイントを所管)の軋轢を生むかもしれない。

小泉内閣が打ち出した「e-Japan戦略」以来、自民党の歴代内閣は政策推進姿勢として「骨太」を連呼してきた。今回の行政のデジタル化も、思いつきで企画されたものではなく、昨年1月に行われたeガバメント閣僚会議での決定「デジタル・ガバメント実行計画」に基づいている。

ところが、首相官邸のIT総合戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)は各省の寄せ集めで、縄張り争いに汲々としているやに聞き及ぶ。これを取り仕切る政府CIO(内閣情報通信政策監)はあくまでもアドバイザーで、何がしか指示をする権限は与えられていない。

IT担当大臣も、無任所の国務大臣なので似たようなものだ。現職の平井卓也大臣は安倍首相の信任が厚いと聞くので、何かやってくれるかも、と期待する向きが現場では少なくない。とはいえ、参院選後には内閣改造があるだろうし、安倍政権がいつレイムダック化するかもわからない。

国や自治体の情報システムにどのような技術を使うのか、ソフトウェア製品やサービスのライセンス管理はどうするのかといったIT標準体系もなく、IT調達基準もない。司令塔や調整役が不在のまま、行政手続きのデジタル改革に突き進んでいけるのだろうか。