もうハンコは必要なくなる? 霞が関「デジタル化改革」の現実味

さまざまな「しがらみ」を振り切れるか

「法人登記」はオンラインで可能に

現行の法人登記手続きは、ほとんどのプロセスでハンコと添付書類の提出が求められる。そこで内閣官房・経産省案では、代表者印の代わりに「商業登記電子認証」を利用する。

ただし、会社を設立したいならば、事前にマイナンバーカードを取得する必要がある。マイナンバーカードで本人確認をしたうえでID/パスワードを取得したら、電子証明書の発行を申請するために、法務局に出向かなければならない。役所に出向くのは、その1度だけなので、「そこは我慢して」というわけだ。

そこから先の手続きは、すべて電子的に行われる。手順は下記だ。

 

(1)署名用アプリをダウンストール

(2)アプリを起動

(3)IDとパスワードを入力

(4)PDFに電子署名を付与

(5)当該機関に送信

(6)受信した機関は法務局に照会

これまでのように、申請者が複数の役所を回って公的証明書の「運搬者」になるのでなく、確認が必要な際には役所が所管機関に照会するかたちに転換する。

さらに、これまで対面で行われてきた公証人による定款認証を双方向TV会議システムに替え、定款認証と設立登記手続を並行して行う。そもそも21世紀の現代に、明治・大正の臭いが漂う「公証人」なる制度が必要なのかという議論はさておき、これにより申請から登記完了まで、現行の7日を24時間に短縮することを目指すという。

さらには、登記完了後の税務署や市区町村への届け出、労基署や年金事務所、ハローワークでの手続きも、法人共通認証基盤で行えるようにする。法人名や所在地、代表者名など同じ情報を何度も記入することなく(ワンスオンリー)、あちこちに移動せず1つのサイト(アットワンス)でできるようになるというわけだ(図)。

法人登記手続き改革のイメージ
拡大画像表示

これから起業するネット世代にとって、ハンコと添付書類、面談や窓口での手続きといった「時代錯誤なプロセス」を省略できるのは大歓迎だろう。

実際、新たに会社を設立しようとするベンチャーは、手続きが24時間以内に完了するシンガポールや香港で登記を行っている。日本から起業家が逃げ始めているのだ。国や自治体にとっても、税収や雇用の拡大に直結する施策だ。

また企業にとっても、税務、法務、雇用、年金、助成措置申請などの手続きがワンスオンリー/アットワンスでできるようになれば、大幅な事務の効率化が期待できる。

印章業界からの反発

関係筋によると、法人登記手続きをデジタル技術を使って簡素化することに抵抗感を示したのは、案の定というべきか、印章業界だったという。

そのため、内閣官房と経産省は昨年7月、印章業界の要請を受けて全国6か所(東京、北海道、名古屋、甲府、福岡、大阪)で説明会を実施。「実印制度を廃止するのでも、行政手続きで押印を不要にするのでもない」「個人認証の選択肢を増やすだけ」という説明を行い、おおむね理解が示された。

たしかに法人登記手続き以外の、銀行口座を開設したり、取引に伴う契約をかわしたりする際の手続きでは、実印・公印はなくならない。日本では長年、資格や証明の有無は押印の有無によって示されてきたし、行政における証明書でも、公印が押されていると「ありがたさが違う」「引き締まって見える」との感想も未だ根強い。

経産省は今回、「いきなりすべての行政手続からハンコをなくすのは無理」と認めつつ、自省が所管する制度の中で「ハンコなしでOK」の事例を作ることにより、率先垂範する意思を示したと考えられる。