“過去の遺物”でビール革命!“伝説のホップ”仕込みのエールを飲む

醸造科学に新展開をもたらした謎の成分
中川 隆夫

ホップとは「ビールに着せる洋服」である

商品開発を担当した新井さんはこう語る。

「ソラチエースが、ホップの品種名です。サッポロビールがホップの育種をしている北海道空知郡の地名からきています。1984年に品種登録して以来、長く埋もれたままでした」

品種登録から35年を経て、ようやく登板の機会が訪れ、注目を集めることになったホップ。その長く埋もれた期間を経て復活を遂げた物語は後で紹介するとして、まずは「ホップの役割とはなにか」について確認しておこう。

ビールの原料となる麦芽を人間の身体にたとえるなら、ホップは「彩りを与える、洋服のイメージ」と新井さんは言う。具体的には、苦みや香りを生むほか、泡持ちの良さにも関連する。さらには、醸造過程でビールを清澄化する性質ももっている。

「泡は、ビールにフタをしてくれる存在です。泡持ちが長ければ、そのぶんビールの酸化が抑えられ、美味しさが持続する。また、ホップにはアルファ酸という成分が含まれており、醸造の過程で熱をかけるとイソアルファ酸という成分に変わります。爽快な苦みのもとはほぼ、このイソアルファ酸なんです」(新井さん)

大量生産されるビールには合わないが…

9世紀ごろからビールづくりに使われはじめ、17世紀前後から広く「大人の苦み」を担ってきたホップ。ビール以外ではほぼ使われることのない、アサ科の植物だという。

栽培されているのは、ヨーロッパやアメリカ、日本でも北海道や東北といった寒冷地に限られる。ツル状の多年生植物で、秋口に刈り取った根元の株を残しておくと、春先にそこから新芽が出てくる。

朝顔やゴウヤのようにツルがどんどん伸び、高さ5メートルほどの栽培用の棚に巻きつきながら生長していく。やがて、球果をつけたところを刈り取る。

【図・写真】ホップについて

株が雄と雌に分かれた植物で、雄の株から受粉をする前の処女の球果をホップの材料に使うところがミソだという。受粉によって雑味成分が生まれるので、それを避けるためだ。球果は、松笠を軟らかくした緑色の花のよう。これを乾燥させてペレット状に固め、ビール醸造に使う。

「一般的な淡色ビールには、数種類をブレンドしたホップを使います。多くの人に好ましい香りや苦みを狙ってつくるためです。個性的な香りをもつソラチエースのようなホップは、こういうビールには使われない。だから、ビールをグビグビ飲んでいたような1980年代には、注目を集めることがなかったんです」(新井さん)

そのため、品種登録当時は見向きもされなかったのだ。