家賃を滞納する若者たち「3つの共通点」

2千件以上のトラブルから見えたこと
太田垣 章子 プロフィール

お金の教育をしない日本

日本の裁判所で、お金の貸し借りに起因する訴訟は、いったい何件くらい行われているかご存じですか? 実は、東京簡易裁判所だけでも1日100件以上になります。

現在は借金のハードルが、かなり低くなっています。消費者金融は大手メガバンクの傘下に入り、誰もが気軽に無担保でお金を借りられる時代になりました。ATMで銀行の預金を引き出すようにお金が借りられるのですから、金銭トラブルに見舞われる人が増えるのも当然なのかもしれません。

日本人は「子どもがお金のことを口にするのは卑しい」と考えがちです。けれど我が子をお金の問題から遠ざけて、お金に関する教育をしないままきてしまった結果が今の状況なのだとしたら、その考えは改める必要があるでしょう。

 

共通点③明け渡しのときに部屋が汚い

そしてもうひとつの共通点として挙げられるのが、家賃を滞納する若い人に「部屋をきれいにして返す」という感覚がほとんどないということです。私がこの仕事を始めたばかりの頃、「家賃を払えずに出て行くのだから、せめて家中ピカピカにして出て行ってください。『大家さんごめんなさい』という気持ちを示してください」と言うと、大抵の人は本当にピカピカにして出て行ってくれていました。

でも今は「よくこれだけ汚せるな……」と、呆れるほど散らかした状態で出て行く人がほとんどです。お金の教育もそうですが、まずは人としての最低限の常識や礼儀を身に着けてほしいとしみじみ思います。

その一方で、自分が家賃を滞納したのではなく、別居していた父親が家賃を滞納したにも関わらず、40平米のゴミ屋敷と化した部屋を、「お金がないから」と2トントラックを借り、自分一人で粗大ごみを運び、最後にピカピカにして返した18歳の男の子もいました。

彼は精神に疾患を抱えた母親の面倒を一人でみています。定時制高校に通いながら、日中は工場で非正規雇用として働き、「高校を卒業して正社員になる」と必死に学業と仕事とを両立させていました。家賃を滞納したのは父親なのに、「自分が返さないと連帯保証人になっている叔父に迷惑がかかる」と18歳ですべてを背負っているのです。

彼は確かに貧しい若者ですが、彼自身が家賃を滞納するようなことはないでしょう。彼には「きちんとしなければ」という心があるからです。彼とやり取りしていて、「自分を一番に考えていいんだよ」と言いたくなるほどでした。

18歳にして、父親の家賃滞納を受けて2トントラックを借り、一人で片付けまでした男の子。彼のように努力している人が報われる社会でなくてはならない Photo by iStock

家主も借主にも必要な「お金の知識」

近年、相続税対策としてアパート経営に乗り出す人が増えています。少子化で子どもの数は減っているのに、賃貸物件の数は増える一方。需要と供給のバランスが崩れれば、多くの家主さんが深刻な空室問題に悩まされることになります。

そうなると、本来ならその物件を借りるだけの経済的基盤がない相手にも、滞納のリスクを覚悟してでも貸さざるを得ない、家主側の事情も出てくるでしょう。そんな家主にとってありがたい存在となるのが家賃保証会社なのです。

借りる側には「連帯保証人を頼む手間がいらない」というメリットを、家主側には「万一の時に家賃を代位弁済してくれる」という安心感を与えてくれる家賃保証会社は、今後ますますなくてはならない存在になっていくと予想されます。

ただし一方では、それこそが家賃滞納を生むきっかけにもなる、諸刃の剣であるとも言えるのです。これからは制度を国として整えていくことを求めながらも、部屋を借りる側だけでなく、家主側も積極的にお金の勉強をしていく必要があります。

生活費のなかで、住宅コストはもっとも大きな経費です。経済的破たんを避けるためにも、物件を借りる際は背伸びをせず、身の丈に合った家賃の部屋を選んでいただきたいと思います。

構成・文/上田恵子

太田垣さんが16年間にわたり、のべ2200件以上見てきた「家賃滞納」の現場のリアルなルポルタージュと背景分析をまとめた一冊。エリート社員が家賃滞納になってしまったり、貧困の連鎖が起こっていたり、必死で努力していてもほんの小さな躓きから家賃滞納に陥ってしまったり……他人事ではない「現実」が凝縮されている。