ヤクザを演じても男の哀しみが溢れてくる…大杉漣の魅力を語ろう

津田寛治×吉田多喜男×篠崎誠
週刊現代 プロフィール

悪役も愛情を持って演じた

津田 最後の出演となった『アウトレイジ 最終章』では、元証券マンでありながら、棚ぼた的に暴力団・花菱会の会長に就任する野村和夫役を演じています。

吉田 実は『アウトレイジ』シリーズには、従来の北野組とは雰囲気を変えるというコンセプトがあり、三浦友和さん、小日向文世さんをはじめ、これまで北野映画とは縁のなかった役者さんたちを起用してシリーズ前2作を作ったんです。

ところが、締めくくりとなる『最終章』の撮影を前に、花菱会会長役だった神山繁さんが体調不良で入院されてしまった。

そこで、北野監督に「誰か別の方を」という相談をしたところ、「IT関係の業界からきた会長っていう設定で、大杉さんに頼むのはどうだい?」という言葉が返ってきた。北野監督の大杉さんへの絶対的な信頼が、異例の登板につながったんです。

 

篠崎 『アウトレイジ 最終章』の大杉さんは、久しぶりの北野組への参加で、本当に活き活きしていましたね。口先ばかりで、実は小心者の男の役で、見ていて嬉しくなりました。

吉田 冒頭の花菱会の定例会の場面、西田敏行さんや岸部一徳さんらが演じる大幹部たちがズラリと並ぶ前で、大杉さん演じる野村は「少しは頭使え!」と青筋を立てて啖呵を切ります。

野村は先代会長の娘婿という「大義名分」で新会長に収まったはいいものの、元はただのサラリーマン。墨を入れたことがないのはもちろん、下積みの経験もなくて、古参の幹部たちからはバカにされている。

ナメられたくないからやたらと吠えるんだけど、やっぱり板につかず、どこか滑稽に映ってしまうという哀しい役どころ。単純な「ヤクザ者」とは違う雰囲気を、大杉さんは見事に表現していました。

津田 どんなに去勢を張ってもすぐに馬脚を現すんですよね。車に乗っているときに敵対する勢力から銃撃を受けるシーンなんて、目を白黒させながら「こ、この車、防弾じゃねぇのか! 死んだらどうすんだゴラァ!」と、およそヤクザの会長とは思えない動揺を見せる。

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篠崎 最後は拉致された挙げ句、道路に首の下まで埋められて、号泣しながら……。かなり残酷な死に方にも関わらず、大杉さんがやるとクスッと笑ってしまうと同時に、寂しさを感じさせる最期でした。

津田 大杉さんが演じる悪役には、どこか憎めないチャーミングな部分があるんですよね。そういうところが見るほうにも愛着を感じさせるから、悪党でもやられてしまうとどこかしんみりとする。

僕は昔、悪役をやるときは、演じている自分が嫌いになるくらいの、とことん卑劣な人間にならなきゃいけないと思っていた。でも、大杉さんの演技を見て、「そうじゃないんだ」と気づいたんです。

演じる側に「嫌なやつだけど、俺は俺なりにこいつのことが好きだよ」っていう愛情がなければ、どうしても役が薄っぺらくなる。大杉さんは、そういう愛情を底なしに持っている人だった。