ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽「ヴェイパーウェイブ」とは何か

アメリカを覆う「ノスタルジー」の魔力
木澤 佐登志 プロフィール

二重、三重に張り巡らされるノスタルジア

ヴェイパーウェイヴとノスタルジアの関係性についてさらに考えてみよう。

ヴェイパーウェイヴからの派生ジャンルにフューチャー・ファンクと呼ばれるものがある。70年代~80年代のファンクやディスコサウンドのサンプリングとフィルターハウスのビートをフィーチャーしたジャンルで、数あるヴェイパーウェイヴのサブジャンルの中でもとりわけ人気が高い。

そんなフューチャー・ファンクを代表する1993年生まれのアーティストがSaint Pepsiだ。ここで取り上げるのは、マイケル・ジャクソンをサンプリングした彼の代表曲のひとつ「Enjoy Yourself」の、YouTubeにアップロードされている非公式MVである。「Enjoy Yourself」に80年代のマクドナルドのCM映像を組み合わせたこのMVは、現在の時点で100万回再生されている。

このCM映像に登場する三日月頭のキャラクターは、マクドナルドが1986年から1989年まで用いていたマック・トゥナイトと呼ばれるマスコット・キャラクターで、特筆すべきはこのCM自体がアメリカの50年代~60年代に対するノスタルジアに満ちていることだ。

本来のCMでマック・トゥナイトが歌っていたのは歌手ボビー・ダーリンが1959年に発表した「マック・ザ・ナイフ」という楽曲のパロディ・ソング。ダーリンの「マック・ザ・ナイフ」は全米で大ヒットを記録し、グラミー賞の最優秀レコード賞を獲得していた。

 

CM内でマック・トゥナイトが着用しているサングラスはレイ・チャールズを想起させるし、このマクドナルドのCMは80年代当時のベビーブーマー世代が抱いていた過去へのノスタルジアに当て込んで作られていたことが窺える。

だから、このSaint Pepsi「Enjoy Yourself」の非公式MVで表象されているノスタルジアは二重である。さらに、ダーリンの「マック・ザ・ナイフ」が本来はジャズのスタンダード・ナンバーであり、1928年初演の舞台『三文オペラ』の劇中歌「メッキー・メッサーのモリタート」が原曲であることを考え合わせるならば、ここでのノスタルジアは三重となる。

このように、後期資本主義における加速化された大量消費文化は、入れ子状のノスタルジアによって駆動している。

「日本」という強力な記号

フューチャー・ファンクの別の興味深い側面としては、日本のアニメや80年代のシティ・ポップに対する偏愛を挙げることができる。前述のSaint Pepsiにも山下達郎をサンプリングした楽曲が存在するが、80年代といえば日本はバブル景気に湧き、アメリカには安価な日本製品が大量に流入してくるなど、日本のプレゼンスが否応にも高まっていた時期に当たる。

そんな80年代の日本のポップスはフューチャー・ファンクを超えて密かなブームになっている。2017年7月にYouTubeにアップロードされた竹内まりやの「Plastic Love」は、YouTubeのアルゴリズムの後押しもあって動画が権利者に削除される2018年12月までの間に約2400万再生を記録していた。フューチャー・ファンクのアーティストNight Tempoも「Plastic Love」をリミックスした楽曲を発表している。

シカゴを拠点に活動するシティ・ポップDJ、Van Paugamは、『シカゴ・リーダー』の記事の中で、アメリカの商業化された過去のノスタルジアに対して人々は麻痺した状態に陥っていると指摘している。

際限なくリブートされる映画シリーズ、再結成されるバンド、等々。もはや、アメリカの若い世代は自分たちの過去の記憶に純粋なノスタルジアを感じることができなくなっている。その代わり、日本という他者――自分たちが経験したものではない時代と場所の記憶に、ある種の新鮮で穢れていないノスタルジアを求めているのだ。