「スピーチというのは、一方的に話すことではありません。伝えたい内容がある前提で、『何を、どう伝えるか』なのです」そう語るのは、日本生まれの日本育ちながらアメリカのスピーチコンテストで3度も優勝し、現在プロスピーカーとして活躍する信元夏代さん。ビジネスの現場で、学校で、「誰かを口説き落とす」ことは「伝え方」次第だという。
スピーチひとつで、どれだけビジネスで差が出るものなのか。
実際にプレゼンの仕方だけで、一度断られた3億円の投資を得たケースがあるので、ご紹介しましょう。
クライアントのO氏は実業家で、日本にさまざまなロシア製品を輸出入している方でした。ビジネスは多岐にわたり、中古自動車からロシアの食品、伝統産品まで幅広く取りあつかう商社を経営しています。
O氏は、アメリカ市場へと事業拡大すべく、在庫購入や倉庫、物流、ITシステムなどに投資する必要があり、投資家をつのっていたところでした。
ところがベンチャーキャピタル数社にプレゼン(詳しく言うとピッチと呼ばれるもの)をしていたのですが、良い返事はもらえず、資金調達ができていませんでした。そこで弊社にご相談があったのです。
「自社のアピールも経験も豊富に盛り込んだのに、なぜか反応が薄い。あとはなにを盛り込めばいいのか、コンサルして欲しい」
そこでプレゼン資料を拝見したところ、大きな欠陥が見つかったのです。
O氏が伝えていたのは、
「私の経験」
「すべての事業分野に精通している私の知識」
「これから私がやっていきたいこと」
など、すべてが「私視点」のプレゼンだったのです。
このプレゼンは「投資を得ること」が目的です。
そのためには、いかに自社がすばらしいかという「宣伝」ではなく、「聞き手にとっての利益は何か」を示さなくてはなりません。
そこで「聞き手視点」に転換して、
「私の事業に投資すると、投資家のあなたはどのような利益があるのか」
という内容にプレゼンをシフトしました。
また「私の会社が提供する価値は、××です」というメッセージも絞りこみました。
O氏の事業範囲が広かったので、すべての事業に共通していえる価値として、
「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家」(19文字)
というメッセージを打ち出すことにしました。実はこの「20文字以内のメッセージ」ということも「伝える」ことのキーポイントなのですが、これについては別の機会に詳しくお伝えさせていただきます。
これを投資家に再度プレゼンしところ、みごとに3億円の投資を得ることができたのです。
事業内容が変わったわけでも、提案内容が変わったわけでもありません。変えたのはプレゼン内容の「視点」だけです。「聞き手視点」にシフトしたプレゼンによって、3億円のディールが獲得できたわけです。