一流企業勤務でも…?他人事ではない「家賃滞納という貧困」の現実

自分に関係ないと言えますか?
太田垣 章子 プロフィール

努力がきちんと報われる社会になるのか

親の経済的格差が子どもの世代まで受け継がれ、厳しい環境に置かれている若者はたくさんいます。恵まれた環境にいられる若者のほうが、むしろ少数派ではないでしょうか。
 
がんばりさえすれば、仕事を選びさえしなければ、贅沢さえ求めなければと昭和の古き良き時代を味わった人たちは言うでしょう。ブラックバイトやブラック企業の問題も深刻です。決して同じ尺度では測れないことを、大人たちはきちんと知らなければなりません。
 
これからの日本を背負う若者が、希望に満ちていなければ、日本の将来は明るくはなりません。今のままでは、前に進もうとする足もいつしか止まってしまいます。今、何より必要なのは、「がんばった努力が正当に報われる社会」ではないでしょうか。

家賃を滞納している子どもを持つ世帯は、ほぼ貧困家庭です。部屋を訪れると、お腹を空かせた子どもだけが留守番しているということがあります。「ママはいる?」と聞くと、首を横に振るだけ。「ご飯食べた?」 の問いにも、首を横に振るだけ。見かねてコンビニでおにぎりを買って戻ると、 喉に詰まらせる勢いで口に運び、「暗くなるまで 帰ってこない」と教えてくれたこともあります。ライフラインが止まった部屋で、カップラーメンの麺をかじっていた子もいました。
 
最近ようやく子どもの貧困が取り上げられるようになり、一日のご飯は学校の給食のみ、健康保険がないために歯の治療も受けられない、風邪をひいても 病院に行けない等の情報が伝えられるようになりました。
 
貧しくても、愛情や笑いが溢れる生活であれば、 前を向くこともできるかもしれません。しかし、家賃滞納世帯は経済的に追い詰められ、そんな余裕もなかなかないはずです。

こういう現実を知っても、「他人事」のように受け取っている人もいるかもしれませんが、実は決して「他人事」ではありません
 
たくさん子どもが生まれ、元気に育ち、働いて税金を納めてくれる、これが 健全な社会です。そこで初めて、国の財源が積み立てられることになります。
 
ところが子どもたちが生まれず、せっかく生まれてきてくれたとしても、心健やかに育つ環境でもなく納税ができなければ、日本という国がますます貧困状態になります。そうなれば私たちの年金等の財源は、確実に枯渇していくでしょう。

つまり子どもの貧困は、決して他人事ではなく自分事なのです。かつての日本がそうであったように、子どもこそ、国の宝。地域が、社会が、国が子どもたちを育てていくといった視点を、再び取り戻すことが必要なのではないでしょうか。

 

確実に増えている「家賃滞納」 

家賃滞納の理由は、事業が失敗した等の単純なもののみならず、景気の低迷や年金受給年齢の引き上げ、低賃料物件の減少等さまざまです。

私自身、 30 歳で生後6カ月の乳飲み子を抱えて離婚を決意し、6年間にわたり極貧生活を経験しました。この間働きながら勉強して、 36 歳で司法書士となった身です。幸運にして合格できたので貧困生活から脱出することができましたが、その間にほんの僅かな躓きがあれば、確実に家賃を滞納する側にいたでしょう。
 
生活に追われ、お金に追い詰められると、人は余裕を失います。生きる活力も奪われます。目先の考えは「今日をどう凌ぐか」に囚われてしまうのです。 視野が狭くなっているため、改善策もみつけられません。その思いを十二分に味わってきたからこそ、私には家賃滞納をしてしまう人の気持ちがとてもよく分かります。

2200件以上の中には、悪質な滞納者もいました。一方でがんばってはいるけれどお金がないと、もがいている滞納者もいました。本来、訴訟代理人としての仕事は、手続きで「明け渡せ」の判決をとればいいこと。ましてや認定司法書士は簡易裁判所の訴訟代理人にはなれますが、強制執行の代理人にはなれません。

それでも現場に足を運んできたのは、「誰かのサポートが必要なら、その役を買って出ても寄り添ってあげたい」そう思ったからです。そこでは司法書士としてというよりは、ひとりの貧困経験者としての思いが勝ります。追い詰められ苦しみ続けた6年間の傷ついた当時の自分を、手助けしてあげたいという感覚に近いのかもしれません。

養育費を払われなかったことで3人抱えながら家賃滞納に陥った母親、一流建築会社に勤務している最中なのに家賃を滞納せざるをえなくなったサラリーマン、親の滞納を支える18歳……太田垣さんが誠実に向き合ってきた実例をリアルに描いた一冊。家賃滞納という貧困の社会的背景も分析している。