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一流企業勤務でも…?他人事ではない「家賃滞納という貧困」の現実

自分に関係ないと言えますか?

かつて一億総中流社会と言われていた日本。がんばれば家が持て、マイカーも所有できました。雇用も安定し、将来の不安もなかったのではないでしょうか。勤め上げれば、退職金も年金も当たり前のようにもらえ、老後に孫たちを引き連れての旅行だって楽しむことがで きました。
 
しかしバブルが崩壊し、日本経済は大きく変化していきました。大企業が倒産する時代。年金も受給年齢は先送りとなり、金額だってこの先どれだけ受け取ることができるのか不明です。定年の年齢も引き上げられてきましたが、年金受給までの空白の期間もあります。

それでも国民の多くは、自分が貧困と紙一重のところにいるとは思っていません。
 
相馬理香さん(以下すべて仮名、29 歳)も、そのひとりでした。

 
司法書士として16 年間、延べ2200件以上、家主側の訴訟代理人として、家賃滞納者と向き合ってきた太田垣章子さん。滞納者が一日でも早く人生の仕切り直しができるように、現地に何度も通い、訴訟と並行して退去に導く交渉を重ねていることで知られており、その経験を『家賃滞納という貧困』という一冊に上梓した。そこには、「他人事」とは決して思えない事例にあふれている。本書より2つの事例をご紹介しよう。

有名私大→一流代理店からの暗転

その日、相馬里香さんは2歳になる娘と、いつものように部屋で遊んでいました。

 「裁判所です。相馬さん、いらっしゃいますか?」
 
突然インターホンが鳴りました。

裁判所? ドアの向こう側に、数人の男性が見えました。差し出された名刺を見ると、地方裁判所の執行官と書かれています。「相馬一人さんが家賃を払っていらっしゃらないから、強制執行で来ました。ちょっと中に入っていいですか?」   
 
家賃を払ってない? 
 
頭がパニックになって、執行官と名乗る人の説明も頭に入ってきません。部屋の壁に1枚の紙が貼られましたが、それすら意味が分かりませんでした。

幸せな家庭を暗転させた起業

賃借人である相馬一人さん(30 歳)は、消え入るような声で語りました。 「妻にはどうしても言いだせなかったんです」
 
一人さんは有名私立大学を卒業後、大手の広告代理店に就職。年収は同世代の中でも良い方で、28歳にしてすでに日本の平均年収を軽く超えていました。学生時代から付き合った理香さんと25歳で結婚して5年。娘も生まれました。世田谷にある家賃18万円超えの部屋に住み、傍から見ても幸せな家族だったに違いありません。
 
坂道を転がり落ちるきっかけは、起業でした。
 
仕事が楽しくて仕方がなくなった頃、40代で年の半分を海外で過ごす、そんな人の記事を目にしました。パソコン1台でどこででも仕事ができる。不動産投資や株投資で、不労所得もある。そんな内容でした。株や不動産が稼いでくれるなら、仮に年金が入らなくなったとしても、心配することはありません。
 
衝撃でした。会社は大手で安定していたけれど、自分がぬるま湯に浸かっている気がしました。もっと刺激的な生活をしたい、もっと稼ぎたい、そのためにはここから飛び出そう、そう夢見た結果の独立でした。
 
起業に反対した理香さんを押し切って、29歳のときに独立起業。サラリーマン時代に担当したクライアントも、独立したら仕事を任せてくれると言ってくれたので安心していました。
 
でもこれが甘い見通しでした。
 
蓋を開けてみたら、誰も仕事の依頼などしてくれません。クライアントは自分を評価していたのではなく、大手の会社の一社員として付き合っていた、そう初めて気がつきました。 

仕事がなければ、お金は入ってきません。理香さんに心配をかけたくなかったので、サラリーマン時代と同じ額の生活費を渡しました。家賃と合わせても、月30 万円以上が貯金から減っていきました。資本金に準備した100万円もあっという間に消えていきました。
 
起業後半年ほどで、小さな仕事がぽろぽろ入ってき始めましたが、生活費を補うにはほど遠く、消費者金融から足りない分を借りるようになりました。