歓声、ため息、そして欲望を剥き出しにした中国人の貌、貌、貌・・・。
こんな光景を、どこかで目にしたことがあると思った。そうだ、GIレースが開催される時の東京競馬場だ。
だがここは、東京競馬場から遠く2000㎞も離れた北京のCBD(中央商業地域)の中心に位置する、68階建てのオフィスビルの一角だ。5月18日の午前10時半から、ここで「2010年春のクリスティーズ・オークション」が開催されたので、足を運んでみた。
中国はいまや、本家のイギリス、アメリカと肩を並べる「3大オークション大国」に成長していて、この日裁かれた中国の「お宝」は、計491点にも上った。
1点1点、白熱したオークションが、中国人富裕層の間で繰り広げられるため、午前中から始めたオークションが、終了したのはなんと深夜の2時! 休憩を2回挟んだだけで、中国の骨董バブルの主人公である富裕層たちは、まるで徹夜麻雀でも打つように、深夜まで「お宝ショッピング」に興じたのだった。
1766年創立の権威ある「クリスティーズ」の文字が彫られた、まるで東京競馬場のスターターが上る台のような、高さ2mほどの演台に、中国人中年男性の「主持人」(司会進行役)が、午前10時半きっかりに上った。
そして、集まった300人ほどの中国人富裕層と、会場の脇に設置された、遠距離顧客の電話注文に即応するための電話機13台を一瞥すると、高らかに開会を宣言した。
「昨年冬に続いて、今回ますます多数のご賛同をいただき、感謝します。これより春のオークションを開催いたします。使用通貨は人民元で、クレジットカードは中国国内の物のみ許可しますが、時々刻々変わる競売価格は、人民元の他に、香港ドル、台湾ドル、シンガポールドル、米ドル、ユーロ、英ポンド、カナダドルの計8通貨で表示します・・・」
オークションは、まずは家具や小物類などから始まった。
どんな「お宝」が登場したかと言えば、家具なら机、椅子、タンスから棺桶まで、小物類なら鏡、玉石、硯からツメ切りまで、文字通り千差万別だ。
清の雍正帝が座っていた座布団という「珍品」も、競売にかけられた。座布団といっても、象牙を粉砕して薄く伸ばした192㎝×91.5cmの白座布団だ。
前方スクリーンに、座布団がアップで映し出され、「主持人」が意気揚々と語る。
「ハイ、これは清朝3大賢帝の一人、雍正帝が、夏の暑い時期に座っていた座布団で、大皇帝の息吹きが伝わってくる逸品です。20万元(1元=約13.5円)から始めます。さあ、どうぞ!」
「主持人」が言い終わるや、参加者たちが数字の札を掲げる。
「ハイ、25万元、ありがとうございます。あっ、そちらの右の方、30万元。奥の方、50万元・・・」
こんな調子で、瞬く間に価格が競り上がっていく。と、私の右隣の寝間着姿(失礼!)のような頭ボサボサの青年が突如、「80万元」の札を出し、私は思わず、のけぞってしまった。