ニセの研究データで大儲けした医薬メーカー「無罪のナゾ」

世間を揺るがした改ざん事件は最高裁へ
村上 和巳 プロフィール

論文だから広告ではないという紋切型でいいのか?

ディオバン事件では、検察は時効などの影響で、京都府立医科大学で行われた臨床研究で発表された論文の一部のみで旧薬事法違反を適用することに止まった。

一審の東京地裁の公判でデータの統計・解析を担当した元社員は、一貫してデータ改ざんは否定したが、その証言は証人・関係者の供述や証拠とはおよそかみ合わず、時には検察側や裁判長からの尋問に口ごもることもあった。

 

また公判で検察は、研究参加医師が患者データを入力するWebデータ管理システムを管理・運用した会社の経営者の供述調書も提出。

厚労省の調査に対して、経営者が元社員に改ざんが可能な生データを渡したことを証言したところ、元社員が「あんなことを言ってもらっては困る。データは渡さなかったことにしてほしい」と口裏合わせを依頼していたことが白日の下にさらされた。

検察は元社員に懲役2年6月、ノバルティスに罰金400万円を求刑。しかし驚くべきことに、一審で東京地裁は、元社員もノバルティスも“無罪”としたのである。

判決では一貫してデータ改ざんを否定していた元社員の証言の信ぴょう性を否定し、元社員によるデータ改ざんがあったと認定した。

だが、旧薬事法第66条1項で定める「広告」は(1)顧客を誘引する意図がある、(2)特定医薬品の商品名の明示、(3)一般人が認知できる状態にある、の3要件を満たすものと定義。

事件では(2)、(3)は満たすものの、論文掲載の事前に専門家の審査がある学術誌の論文は(1)は満たさないため、誇大広告には当たらないとしたのである。

驚きの判決だった。「学術誌の論文は広告ではなく、よって改ざんされた論文は誇大広告に当たらない」というわけだ。

この判決には製薬企業関係者ですら首をかしげる。医学論文の広告宣伝利用が常態化しているため、ケースバイケースで論文も広告の一種と認識しているからである。

これに対して検察は当然ながら控訴するも、2018年12月の二審判決で東京高裁は一審判決を支持。東京高検が上告したことで、最高裁までもつれ込むことになった。

ディオバンに関する一連の臨床研究に対して論文発表当初から「結果が不自然すぎる」と公の場で疑義を呈していた東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巌医師は控訴審判決直後、「これでは製薬企業が臨床研究データを改ざんしても罪にならないという誤ったメッセージを伝えることになる」との懸念を表明している。

念のために説明すると、ディオバンに血圧を下げる純粋な降圧薬として効果自体はある。ただ、最終的な合併症予防効果が他の薬よりも高いかのように改ざんしたデータによる宣伝が売上に貢献した可能性は高い。

その結果、処方された薬剤費の7割は国民皆保険制度の下で国民が負担した保険料や税金などで賄われたのである。このまま判決が維持されることは、国民感情では納得がいかないとしても全く不思議ではないだろう。

編集部からのお知らせ!

関連記事