抗生物質の取りすぎで起こる「人体の異変」を知っていますか?

単なる風邪で抗生物質を飲んでいたら…
尾崎 彰一 プロフィール

薬剤耐性菌の出現は必然だった

抗生物質を投与されたヒトや家畜の体内では、大半の細菌が死滅させられるが、遺伝子変異により抗生物質が効かないものが生まれる。「薬剤耐性菌」である。

ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミング自身、「細菌にペニシリン耐性を持たせないよう使用量や使用期間に注意が必要だ」と訴えていたという。

世界的な抗生物質の過剰投与が、抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」を生む温床になっていると言われている。抗生物質を多く投与されると耐性菌に感染しやすくなるからだ。一度感染してしまうとあらゆる治療が難しくなり、敗血症、腹膜炎、肺炎などで死に至る可能性が高まる。

抗生物質の開発と耐性菌の出現はいたちごっこだ。1960年に作られた抗生物質メチシリンに対してメチシリン耐性⻩色ブドウ球菌(MRSA)が出現し、そのMRSAの治療のために開発された抗生物質バンコマイシンに対して、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が出現した。

 

1993年、耐性菌への最終兵器的な存在であったカルバペネム系抗菌薬に対しても「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 CRE」が発見され、医療界は危機感を募らせる。

耐性菌による死者は世界で年間70万人(2013年)に達し、現状のままでは2050年には1,000万人に上るとの予測も出ている。日本でもいつ耐性菌の感染が広がるかわからない。

ちなみにMRSAに感染したオランダ人農夫は、のちの遺伝子解析により、自身が飼育する家畜との接触により感染したことがわかった。家畜への抗生物質使用から耐性菌が出現し、ヒトへ感染した証明といえる衝撃の事実だった。

世界的に増加する一方の薬剤耐性菌に対し、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際社会でも緊急を要する課題となっている。

今こそ微生物との関係を見直すとき

⼈間は出産時に、善⽟菌である乳酸桿菌を⼤量に含んだ⽺⽔で満たされた膣内を通って⽣まれてくる。このとき、⺟親の常在細菌が⾚ちゃんに移植され、その後の成⻑を⽀える基礎を受け渡すのだ。微⽣物との共⽣の道を選んだ⽣命の⾒事なシステムがそこにある。

⾚ちゃんは、ハイハイするようになる頃、なんでも舐めまわすようになる時期がある。そのような⾏為を本能的に⾝に着けているかのようだ。これは、⾃分の⽣活環境にある微⽣物 (細菌)を体内に取り込むためなのかもしれない。こういった⾏為が免疫機能の成⻑に、⽬に⾒えないところで貢献している可能性がある。

しかし、免疫機能の発達途中である乳幼児や⼦どもほど、抗⽣物質が処⽅される。これは世界的な傾向だ。

抗⽣物質の乱⽤が、有益な常在細菌を減らし、⼈間⾃⾝の免疫機能に異常をもたらす。さらには薬剤耐性菌の出現を助け、⽪⾁にも魔法の弾丸であった抗⽣物質が、新たな不治の病を⽣み出す結果になってしまったのか。

全体的な抗⽣物質の使⽤量を減らし、適切な使⽤を常に考えなければならない時代になってきている。主要国⾸脳会議でも抗⽣物質の使⽤削減に向けた話し合いが⾏われている。

⽣まれたときから抗⽣物質の恩恵を受けてきた私たち現代⼈は、例外なくこの問題に向き合わなければならなくなるだろう。その緊急度は年々加速している。