植物ゲノム解析で世界をリードする日本の研究所で訊く「作物の未来」

「難しい」けれど社会実装へ!
地球上の多様な生命活動の中で食物連鎖のてっぺんにいるのがヒトとすれば、植物は底辺を担う。しかも植物には光合成という重要な働きがあり、植物なしには、その上にいる動物もみんな生き延びることができない。

光合成過程で重要な役割を担っているのが、シアノバクテリア(ラン藻)である。生物や地球環境の進化を考える上でも重要なこの生物は、1996年、世界で4番目に全ゲノムが明らかにされた。

解読に成功したのは、日本の研究所──公益財団法人かずさDNA研究所である。千葉県にあるこの研究所は、特に植物ゲノムの研究やデータベースで知られ、シアノバクテリア解読以降も研究機関・大学との共同研究や産学連携によりシロイヌナズナ、トマト、ハクサイ、ユーカリ、食用イチゴ、カーネーション、ダイコン、サツマイモ、ソバ、ラッカセイ祖先種、イチジク、サクランボ「佐藤錦」等のゲノム解読を次々に共同発表してきた。

野菜や果物が多く含まれていることからもわかるように、植物のゲノムは農業や食物を通じて私たちの生活に直接関わるほか、地球温暖化による環境変化に適応するためにも欠かすことができない。
今回は、そんな植物ゲノムの世界をのぞいてみることにしよう。

(聞き手:池谷瑠絵 特記外の写真:飯島雄二 「サイエンスリポート」より転載)

植物ゲノムは長くて遺伝子が詰まっている

総じて植物ゲノムは動物に比べて長く、遺伝子も多いのだそうだ。

「ゲノムには遺伝子を成すひと続きの部分と、遺伝子と遺伝子の間をつないでいるだけでタンパク質の合成にあずからない部分とがありますが、植物ゲノムは遺伝子の部分が多く、全体的にも長い特徴があります。動物と違って動くことができない植物は、特に環境耐性に対する遺伝子をたくさん持っているんですね。一方動物は、どちらかと言うと遺伝子が少なめで、つなぎ方を変えて変化に対応する傾向があり、戦略も対照的」と言うのは、かずさDNA研究所の田畑哲之所長だ。

さらに「倍数性といって、人を含め動物の多くは母親と父親の2系統から遺伝子が伝えられる2倍体ですが、例えば植物である小麦は6倍体で、A・B・Dという似ているけれども少しずつ異なる3種類のゲノムを2セット併せ持っています。私たちが食べるパンもこの6倍体の小麦でできているんですね」。

しかし植物だと、なぜゲノムが増えてしまうのだろうか?

「細胞分裂時等に起こる何らかの異変が原因でしょうが、動物に起こると、生き延びることができません。しかし植物は比較的それを許容する。

また人の影響も大きくて、雑種強勢といって雑種になると勢いが強くなる現象があるのですが、ゲノムの倍加によっても植物体が大きくなることが知られています。このような『変異種』が人為的に選抜され、作物として現在まで生き残ってきたと考えられます」

ちなみにサツマイモは6倍体、イチゴは8倍体と長く、また、より複雑だ。

「ゲノムを読み取ってもなかなか区別できないので、作物のゲノム解析は実はすごく難しいんです」

かずさDNA研究所かずさDNA研究所は、緑豊かな千葉県木更津市のかずさアカデミアパーク内にある

植物のゲノミクスを実際の畑に活かす

田畑所長が植物ゲノムに取り組んでいるのには、いくつかの理由がある。

「作物を使った育種技術を誰がやるのか」という問題意識もその一つだ。