1mm未満の極小生物が、巨大生物の進化を促す「エンジン」だった!

「無視されてきた」化石に魅せられて
須藤 斎 プロフィール

大学時代、やりたいことも見つからず、何がしたいのかも理解していなかった私は、漫然と日々を過ごしていた。

そんななかで、思いもよらぬ研究対象と出会うことになった。

顕微鏡を用いなければ決して〝目に止まることのない〟「珪藻」という植物プランクトン。その仲間のうち、従来はほとんど〝研究されることのなかった〟特殊な環境でつくられる「休眠胞子」の、さらにその分野の研究者たちからさえ〝無視されてきた〟「化石」が、なぜか気になってしまったのである。

「珪藻」はきわめて〝美しい〟

モノづくりを生業とする親の下に育った私は、「道具を使う/つくる」ことを間近に見てきた。私自身、そういった作業が嫌いではなかったが、ひとりで生き物を眺めたり、触れ合ったりしているほうが好きな子供だった。

今でも、動物園や水族館に行き、動物たちを写真に収めたり絵に描いたりしているほうが、研究より楽しいと思える時間がある。今にして思えば、それら各種の生き物たちから、きれいだな、格好いいな、気味悪いな、不思議だな、といった気持ちを育てられてきたようだ。

そんな私が顕微鏡を覗き、ひたすら堆積物の中に残されている小さな化石=〝微化石〟を「観察」するという超地味な作業を続けていられるのも、〝美しいモノ/コト〟を求めることが最終目的であるかのような「研究」とマッチしているためかもしれない。

本書の主役である「珪藻」は、きわめて小さな生き物で、その細胞がガラスでできた二枚の殻に覆われているという特徴をもつ。丈夫なガラスでできているがゆえに、その殻が「化石」として泥の中に残っている。殻には多くの穴が開いており、そのきわめて〝美しい〟模様は多くの人たちを魅了してきた。

その分裂・増殖速度は非常に速く、小さいながらも陸上植物に匹敵する量の酸素を生産できるほど、数多く海洋に生息している。

珪藻Photo by Getty Images

はじめて明かされる太古の大事件

その珪藻の仲間である「キートケロス属」が、大規模な地球環境の変動に影響を受けて、かつて3回、大増殖したことがある。

生態系の底辺に位置する珪藻類が増えたことにより、それらをエサとする動物たちのうち、あるものは繁栄し、またあるものは海に帰り、急激な進化・多様化・大型化を遂げていったようすが見えてきた。

さまざまな海域や時代の、キートケロス属の休眠胞子化石をただひたすら観察し、ときにスケッチしながら淡々と分類し、その数を記録していく……。地味で地道な毎日。そんな生活のなかで、悪運にも恵まれつつ、意地になって研究を続けてきた一研究者の〝妄創〟から生まれたのが、「珪藻–海生生物共進化仮説」だ。

1ミリメートルにも満たない小さな珪藻が、体長数十メートルに達することもあるクジラたちの進化に大きな影響を及ぼしていた。それも、「海」と「陸」の変化を通じて──。

「モノを観る/分ける」という単純作業から生まれた、これまで語られることのなかった生命の進化史。生態系の陰の主役である「珪藻」が引き起こした太古の大事件に思いを馳せながら本書をお読みいただければ、望外の幸せである。

海と陸をつなぐ進化論
  『海と陸をつなぐ進化論 気候変動と微生物がもたらした驚きの共進化』大陸移動と海洋の変化が生物に与えた影響とは? 生物の飛躍的進化はいつ、どこで起こったか? 地球規模の環境変動から読み解く壮大な生命史!