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精液を医学的に調べたら「宝の山」だった

実は精しょう(液体)が重要

精液の「真面目な」研究が始まった

笑ってはいけない。恥ずかしがる必要もない。

精液の潜在価値に着目し、「未利用資源」としての活用に挑戦している企業がある。広島大学発のベンチャー企業ダンテ(東京都港区)だ。

2018年7月、同社は、自宅で採取した精液を郵送すると、精子濃度や精液量、総精子数などを測定することができる世界初の検査キット「BUDDY CHECK(バディチェック)」を発売した。普通、精液検査では精液中の「精子」を検査するが、同社のキットは精液中に含まれる「精しょう」を見るのが特徴だ。

検査項目によって4つのラインナップがあるBUDDY CHECK

これまで、健康診断や病気の検査では、血液や尿、唾液などが利用されてきたが、精液はほとんど注目されてこなかった。だが、同社 代表取締役CEO(当時・現在は取締役)の瀧本陽介さんは言う。

「精液(精しょう)には、妊活に有効な精子の数を増やす成分や、精子の運動性を高める成分などが見つかっており、精子が受精するために必要な多くの物質が含まれています。さらにテストステロンのような男性力の指標となりうる成分も多く存在することがわかってきました。

精液は一般的に『ん?』って思われるような検体ですが、真面目に研究することはすごく意味がある。こんな大事なことに、世界も、研究者の方たちも注目していなかったのが不思議なくらいです」

要するに精液は、生命の神秘が隠された”宝の山“なのである。

 

ダンテを訪れ、瀧本さん、萩原啓太郎さん(現・代表取締役)、福士碧沙さん(取締役)の3人に、さらに詳しく”宝の山たるゆえん“を聞いた。

中には採精用のカップ、提出用のチューブ・封筒などが入っている

実は精しょう(液体)のほうが重要?

「精液検査はこれまでタブー視されていた面があり、研究が遅れていましたがその分、今後は調べれば調べるほど、さまざまな成分や役割が明らかになっていくと思います」

福士さんが言うと、瀧本さんがつづけた。

「2018年のメンズヘルス医学会でも発表しました。不妊症の患者さんは、精子の直進運動率(どれだけまっすぐ動いているか)が、問題のない方に比べてかなり低いのですが、精液にクレアチンという成分を添加すると格段にアップすることが確認されました。運動率が3割から5割にまで高まったのです。

クレアチンは、精子にとってバッテリーのような役割を果たしているという報告があります。たった1種類の成分を入れただけでもこれだけ変わる。もしかしたら、不妊の原因は精子ではなく、ちゃんとまっすぐ動けない環境(精しょう)のせいだったかもしれない。そのことを、この実験は証明しています」

萩原さんも言う。

精しょう成分は、単にプールみたいな溶媒として存在しているものではないはずなんですね。でなければ、たとえば亜鉛が、精液中に血中の170倍もの濃度で入っているのか説明できない。意味がないことを生物は絶対にやりません。なにかしらの意味があるはずなんです」

医療は人の命を救う技術や研究が注目されがち。だが、「生まれてくる子どもを増やすことは、救うのと同じ意味がある」と瀧本さんたちは思っている。