2019.02.04
# 世界経済

2019年の市場はどうなる?悪者扱いの「空売り」の歴史に学ぶこと

バカにできない「ショート」の効能
2019年の市場の見通しは難しい。成長の鈍化が懸念され、本格的な買いが入りにくい状況で、「ショート(空売り)」が幅を利かせる可能性が高い。
米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、世界の「空売り」の歴史を振り返りながら解説する。

「ロング」と「ショート」

トレーダーというのは、「方向感のない市場」で一番損をするのだそうだ。

損をするだけではない。株を買えば急落した時に売りそびれるのではないかと心配だし、売ればそのあと株価が急上昇して大チャンスを逃すんじゃないかと気を揉むから、精神的にも一番しんどい。

そういう意味で、今の相場は難しい。

 

昨年10月に世界の株式市場は一斉に大きく急落したが、企業業績はまだ底堅く、キャッシュを蓄えた企業の自社株買いや配当も過去最高水準が続く。足元では行き過ぎた売りを調整する形で、株価は回復している。

年明けのパウエルFRB(米国連邦準備制度理事会)議長の発言を受け、これ以上の金利引き上げはないとの観測が市場に広がったことも、株価にはポジティブに効いた。

しかしリーマンショック以降の世界景気の回復も、すでに11年目。長期的なクレジットの収縮・拡張のサイクルや景気循環を考えても、ここからは成長がスローダウンしても不思議ではない。

また米国での量的引締め(米国連邦準備制度がリーマンショック後に買った米国債を自然償還させ、バランスシートを縮小させること)は続いており、市場に新たな投資マネーが潤沢に入ってくる局面でもない。
(注:なお、1月30日のFOMCでFRBは量的引締めについても「修正する用意がある」と柔軟な姿勢に転じた)

こうした状況では、株価の一時的な反発はあっても、本格的な買いは入りにくい。

株の世界で「ロング」は株を買うこと、「ショート」は売ることだが、一般的にロングが普通に株を買って保有する「順買い」を意味するのに対して、ショートは株を持たずに(借りてきて)先に売る「空売り」を指す。値段が後から下がれば、安くなった値段で買い戻して株を返却することで利益が出る。

最近の市場の動きは、「ロング」が本格的に戻ったというよりは、空売り筋の手仕舞いによる買い戻し、いわゆる「ショート・カバー」が効いているようだ。株が上がればまた「ショート」が戻ってくるだろう。昨年秋の最高値挽回は、相当ハードルが高い。

株式市場のはじめから存在した空売り

さて、「ショート」の歴史は、短くない。株の歴史と同じくらい長いのだ。

「株式会社」の原型は、17世紀の大航海時代に設立されたオランダ東インド会社(VOC)だと言われる。船が宝を持ち帰るかもしれないが逆に難破して沈むかもしれないという「ハイリスク・ハイリターン」な海のベンチャーが株の出発点にある。

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荒海も、みんなで渡れば怖くないーー。投資資金を小分けにして個人が少額でも出資できるようにしたこと、また買った株の値段以上は損をしない「有限責任」制にしたこと、さらにヤバイと思ったらさっさと他人に譲渡できるようにしたこと、などのリスク分散の条件が整ってはじめて、株というものが幅広く取引されるようになった。

VOC株はアムステルダムの取引所で売買されたが、株式発行のわずか数年後の1608年には空売りによって株価が急落するという事態が起きている。今なら違法行為だが、船が沈んだなどと意図的にデマを広げて価格操作を図った輩がいたらしい。これに対してオランダ政府が「株式を保有するものだけがそれを売ることができる」と、証券史初の空売り禁止令を出した。

人類最初の金融バブルはオランダのチューリップがあまりにも有名だが、株の前には商品の取引があった。アムステルダムの商人たちは、すでに商品の先物取引を通じて「空売り」を知っていたのだ。

例えば大量の小麦を売るとなると、取引の度にそれを市場に持ってくるのも大変なので、まず商品の証書や証券が代わって流通する。さらに売り手は、販売するまでに商品の市場価格が下がってしまって損をするのが心配なので、先に一部を今の価格で売っておき、後から現物を渡す「先物契約」を結ぶことで価格変動をヘッジしていたのだ。同じことは江戸時代の大阪のコメ市場でも行われた。

株の空売りは、基本的には小麦や羊毛やニシンの先物が株券に代わっただけだ。

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