目指せノーベル賞! じつは謎だらけ「発光生物」のミステリー

「進化していない」からこそ光る!?
中川隆夫, ブルーバックス編集部

すでに活用されている発光生物研究の成果!

実際に、化粧品材料などの化学物質の皮膚に与える影響を評価する細胞を開発、2017年にはOECDのガイドラインの1つとして活用されている。

「基礎研究から、応用・実用へ。そして最後はガイドラインまでつくるのが我々のスタンスです。発光生物の研究の面白さは、単に発光のしくみを解明することだけじゃなくて、それを医学や薬学に役立てることができること。なぜ基礎研究からやらなければいけないかと言えば、光る原理を見つけなければ応用につながらないからです。フィールドワークも重要なんですよ。それに楽しいし(笑)」(近江谷さん)

光る色は生態系に影響を受ける

ホタルの光る色が多彩なのは、多種多様なホタルが活動している生態環境が影響していると考えられている。赤く発光する鉄道虫というホタルの仲間がいるブラジルでは、1ヵ所で20~30種のホタルが飛び交っているという。その中から同種を見分けるためには色も多彩である必要がある。

光るゴカイも、浅瀬で目立つように青緑になっているのではないかと三谷さんは推測する。発光生物が生き残るためにつけた知恵を、人間が利用させてもらっているのだ。

「光は目印なので、生命現象のマーキングに使えるんです。先日訪ねたイスラエルの研究者は、地上に置かれた火薬を見つけるために発光生物を利用しようとしていました。日本人にはないアイデアですよね」(近江谷さん)

【写真】イスラエル研究者の取り組みを「日本人にはない発想」と語る近江谷さん
  発光生物を利用して火薬発見をめざすイスラエル研究者の取り組みを「日本人にはない発想」と語る近江谷さん

謎だらけの発光生物!

発光生物の世界はまだまだ謎だらけだという。たとえば、ホタルイカ。沖漬けなどの酒肴としても日本人には身近な生物だが、じつは触媒となる酵素すら特定できていないという。

「ホタルイカは山ほど獲れるんですが、世界中の人がやっても特定できない。論文もたくさんありますけど、再現実験すると微妙に違うんですよね」(三谷さん)

「ホタルイカは、発光生物界の最大のミステリーです」(近江谷さん)

ウミホタル、ホタルイカ、ホタル。日本には深海まで潜らなくても、魅力的な発光生物はたくさんいる。夜の海が光るという「夜光虫」もそのひとつだ。

人類を魅了しつづける「光る」という現象

「こいつも面白いですよ。キャプテン・クックは航海中に見つけて『バーニング・シー=燃える海』と驚いていますが、これが夜光虫。動物性プランクトンの一種で、正式名称は渦鞭毛虫(うずべんもうちゅう)と言います。植物性プランクトンの発光性渦鞭毛藻を食べて光るのだと思います」

「この渦鞭毛藻は、昼間は光合成をして夜は光るという完全自立型発光生物なんです(笑)。光合成に使うクロロフィルが代謝すると、ルシフェリンという基質に変わります。それが光るのです。光合成する生物で光る、例外的な存在です。夜光虫は、これを食べて二次的に光る。波の刺激によって光りますが、これが大量発生すると『赤潮』の原因の1つになるのです」(近江谷さん)

光っている夜光虫を見て何かを感じているのは、人間ぐらいしか思いつかない。これこそ、なぜ光るのかわからない生物だろう。

【写真】波打ち際を青く染める夜光虫の光
  波打ち際を青く染める夜光虫の光。神奈川県鎌倉市の海岸で photoby gettyimages

発光生物の「光」は人類の道標となるか?

わからないことだらけだけど、今日わかったことは、発光生物の価値は見た目以上に大きいということだ。

研究者も、初めは美しさに目を奪われて、その不思議な現象のとりこになる。そして10年、20年という長い時間をかけて付き合っていくことで、彼らがもつ能力が、最先端の「センシング技術」につながることを発見した。暗闇でなくても、光は道しるべとなる。

深海で発光する生物を見て、自然のイルミネーションが目の癒やしになる、とホンワカしている場合じゃあない。発光生物って本当はスゴイ、と言いたくなる。

最後に、近江谷さんのこんな言葉を紹介しておこう。

「緑色蛍光たんぱく質(GFP)は、下村脩さんの化学賞の他に、超解像顕微鏡を発明した科学者にもノーベル賞をもたらしています。発光クラゲは2つのノーベル賞を与えた発光生物と言われています。まだ、ルシェラーゼ(発光酵素)には受賞の可能性が残されているので、僕は3つめを狙いますよ」

プロフィール  
【写真】近江谷さん・三谷さん プロフィール写真

近江谷 克裕(おおみや よしひろ)(写真左)
産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門 研究部門長

三谷 恭雄(みたに やすお)(写真右)
産業技術総合研究所生物プロセス研究部門
環境生物機能開発研究グループ 研究グループ長

世界には本当に多種多彩な生物が棲息し、多様性に富んだ独自の機能をもっています。私たちは、こうした生物がもつ多様な機能に独自の視点で取組み、医学や薬学などに活かす研究開発を進めています。

光る生き物は気づいていないだけで意外とたくさんいます。その棲息状況は周辺環境によって容易に影響を受けます。そのため、論文の記載された段階ではすでに棲息状況に変化がある可能性もあります。「見た」というリアルな情報が新たな発光生物へのアプローチの可能性を広げますので、目撃情報をいただければありがたいです。

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