目指せノーベル賞! じつは謎だらけ「発光生物」のミステリー

「進化していない」からこそ光る!?
中川隆夫, ブルーバックス編集部

物理反応ではなく化学反応による光

効率的という言葉に、LED電球よりも? と訊いてしまったが、近江谷さんは「LEDの光は物理反応です。こちらは化学反応なので、それを一律に比較することは難しい」という。

それにしても、あんなに小さな体から強い光を出すのは、光変換効率が高いからだという話には納得がいく。

「ところがですよ……」と近江谷さんの話が続く。

光る原理はわかった! しかし…?

「光る生物の発光のしくみはバラバラなんです。基質や酵素がそれぞれの生物で違うので、発光の具体的なしくみを突き止めるのはたいへんなんです。いま、光るしくみがわかっているのが10種類ぐらいで、そのうちきっちりと基質も酵素(タンパク質)もわかっていて、それが応用に活かされているものは、バクテリアとホタルとウミホタル、ウミシイタケ(クラゲ)の4つぐらいしかない」

「進化の系統樹で考えたとき、発光生物は同じ枝の先にいるわけではなく、それぞれ独自に光るしくみを獲得しているのです」

それぞれに違うしくみで光る!? そんなことが起こっているのか。

光る生物、みんな違って、そこがいい!

「彼らは、あり合わせの材料で光っている。だから、光るしくみがバラバラなのです。言い方を変えれば、酸素をスカベンジすることで光った生物がいままで生き残ってきた。たまたま生き残ってきたとも言えるのです。ホタルの光るしくみがわかったとしても、他の生物の光るしくみがわかるわけではありません。そこが研究の大変なところであり、醍醐味ですかね」(近江谷さん)

2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩さんも、オワンクラゲの光るしくみを解明し、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を発見した。研究のために捕獲したオワンクラゲは数十万匹にものぼると言われる。何十トンものクラゲから抽出できる成分は、わずか数ミリグラムだという。

「オワンクラゲは毎日採れますが、いま三谷さんがやっているゴカイは、年に1週間しか捕獲できません。その時期には研究者総出で富山湾に繰り出します」(近江谷さん)

捕獲チャンスは年に1週間!

「下村脩さんの時代と比べると分析技術が進んでいるので、そこまで必要はないのですが、富山湾のゴカイは、10月初旬の1週間ぐらいしか捕獲のチャンスがない。海中に光を当てて、寄ってきたところをすくい取るんです」

「彼らは生殖行動のためにその時期だけ浮き上がってくる。メスが海面で光りながら輪を描いて回っているところに、オスが光を点滅させながら寄って来て、放精と放卵を行い、受精が成立します。そこを我々が襲うわけです(笑)」(三谷さん)

【写真】身振りを交えて説明する三谷さん
  ゴカイについて、身振りを交えて説明する三谷さん

ゴカイは、海釣りの餌によく使われる1〜2cmの環形動物。光るゴカイは、富山湾と、アメリカ西海岸、カリブ海などで採れるという。カリブのゴカイは満月の2日後に出現のピークが来るが、富山湾は、年に一度。潮の満ち引きとも関係なく、ただ時期に合わせて浮き上がってくるという。

「浮き上がっているのが20~30分で、それでパタリと終わります。終わりがハッキリしているから、仕事を終えて飲みに行くにはもってこいの研究対象です(笑)」(近江谷さん)

多彩な発光色が新技術を生み出す

1週間やっても採れるのは、せいぜい数グラム。数にして400~500匹という地道な作業だ。しかも、見た目はちょっと気持ちの悪いゴカイ。三谷さんたちが注目したのはその光の色だという。

「発光ゴカイは青緑色に光ります。この色が今までなかったのです。陸の発光生物は多くが緑色に光ります。海は青色が多いんです」(三谷さん)

【写真】ゴカイの採取風景
【写真】採取したゴカイ
  ゴカイの採取風景(上)と採取したゴカイ。青緑色に光っている

なぜ、色のバリエーションが必要なのか。近江谷さんが解説してくれた。

「我々は、発光生物のしくみを解き明かして、薬を探したり、毒を感知したりする応用に活かしています。たとえば、がん細胞の薬を探すとき、薬のもつ効果と毒性といった複数の情報が一度にとれるのです。マルチ遺伝子発現解析と言っていますが、もう10年前に製品化して現在、使われています」

ホタルには、緑色に光るものもあれば、オレンジや赤色の光を出す種類がいる。それらのホタルの遺伝子を解析し、光らせているタンパク質を決める。これを哺乳類でも光るように遺伝子配列を変えれば、がん細胞に入れて光らせることができ、たとえば、行き先を追いかけることができるのだ。色分けして追跡すれば、一度で複数の情報を得られるというわけだ。