五輪・女子最年長出場者…亡くなった馬術選手が生前遺した言葉

「馬術がもっと身近な存在になれば」
カルロス 矢吹 プロフィール

もう少し、馬術に興味を…

どんなに競技者が努力を重ねても、馬の質で勝敗がついてしまう、はたしてそれが“スポーツ”と言えるのか? 私でさえ、そんな疑念を他種目の競技者から投げかけられたこともありました。おそらく井上さんを含め、近年の馬術関係者は誰もがそういった声と向き合われてきたのだと思います。

それでも、井上さん御自身は79歳の年を最後に馬に乗らなくなってからも、馬術がもっと日本人にとって身近な存在になることを願っていらっしゃいました。

 

「馬の競技っていうのは面白いのよ、他のスポーツと全然違う。まず男女の差がない、年齢の制限もない、目方も身長も、与えられた種目が出来るんなら何にも関係ない。だから面白いのよ。私が子どもの頃、馬術競技に出ているのは軍人さんが多かったけれど、私が勝つこともあって。出場選手には将校さんだっていたんですよ。個人的な見解ですけれど、皇族の方に、もっと馬術に関わっていただけたらな、と思うんです。

森村さんの息子さんが障害の競技中に事故で亡くなったことがありました。その後に出場する予定だったのが、当時の皇太子殿下、現在の天皇陛下だったんです。普通なら出場を取りやめるところなんですが、皇太子殿下はそのままのコースへちゃんとお出になられて、立派なお姿でした。色んな大会に出場されていましたが、普段からお上手でしたよ。

競技とは言いません。ふらっと散歩するだけの乗馬でもいい、皇族の方々がもう少し馬というものに関わってくだされば、それを見た一般の人たちももう少し馬術に興味を持ってくれると思うんです」

“一般の人が馬術に触れ合う”またとない機会、井上さんは2020年東京五輪を本当に楽しみにしていらっしゃいました。取材の際も、出自に関する話はどこか口が重たいのに、馬術のことになると洋服の裾を捲り上げ、話にも熱がこもり始めました。もしかしたら、亡くなる直前にも馬術のことを考えていらっしゃったかもしれません。

私は電話や手紙ではなく、改めて井上さんに会場で直接御礼を申し上げたかった。それが本当に残念でなりません。

月並みな言い方になりますが、井上さんから見ても2020年大会が“恥ずかしくない”大会になることを、64年東京五輪出場選手達に取材させていただいた人間の一人として願っています。