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ガチのイクメン作家が、想像もつかないやり方で妻に復讐する日

『東京パパ友ラブストーリー』誕生秘話
育児のためにいったん引退宣言をし、ほぼ主夫生活をしている作家・樋口毅宏さんの新作書き下ろし『東京パパ友ラブストーリー』は、なんとイクメンどうしのBL。ファンキーにして切ないこのエンタメ小説には、樋口さん自身の育児ネタ、夫婦ネタがたっぷり注入されている。ちなみに「おっさんずラブ」は一度もみたことがないという。

結婚をして思ったこと

バツイチだった頃、一度も結婚をしたことがない知人たちに対して、こう触れ回ってきた。

「俺は失敗しちゃったけど、人生経験として1回ぐらいは結婚してもいいと思うよ」

ジーザス、なんと愚かだったのか。

いまの妻(三輪記子。五つ下の42歳。3年留年して東大卒。7浪して弁護士。たまにテレビに出る。松竹芸能所属)と再婚してから、考えは100パーセント変わった。

「結婚? しなくていいぞ!ひとりは寂しいかもしれないけど、自由じゃなくなるほうがつらいよ?子どもがいたら好きなように動けなくなるし、お金も自分のためだけに使えなくなる。なにより仕事が思うようにできなくなるよ?そんなのガマンできる?

え、〝孤独死を迎えたくない〟?

あのな、人間はひとりで生まれてひとりで死んでいくの。未婚で孤独よりも、妻や子どもがいるのに孤独のほうが地獄だぞ!」

我ながらこの「転向」ぶりは凄いと思う。

どうしてこうなったのか

どうしてこうなったのか振り返ってみる。

あれは2014年3月のこと、ツイッターで僕とふさこは出会った。

当時、東京在住の僕には半同棲の彼女が、京都のふさこには複数のセフレがいた(https://cakes.mu/posts/16767)。

ふさこを自宅にお持ち帰りしたものの酩酊していたため、小っちゃいまんま彼女の中に射精した。

翌日、当時の彼女の前で愚息を引っ張って遊んでいたら、愚息にピリッとした傷を見つけた。

――ヤバい、ヤリマンから性病を移されていたらどうしよう。

僕は慇懃無礼、じゃなかった慇懃丁寧に、とぉー回しに、「いちばん最近性病検査をしたのはいつですか?」と、ふさこにメールを送った。訴えられないように。

そんな心配は杞憂に終わった。

ふさこは僕のメールに感動していた。

――こいつ、勃たへんくせに私の中でイッときながら、性病の心配してる! オモロいやんけ!

後日、京都のふさこ宅でフル勃起、リベンジを果たした。

初夏、ふさこは僕の誕生日に土建屋のオヤジのツテを使い、横浜の一流ホテルを格安で押さえ、二泊三日のセックス合宿を敢行。のべつ幕なし。

以降、「こいつ見どころがあるな」と思ったようで、セフレ以上夫婦未満の生活が始まった。

そしてその年のうちに、ふさこからこう打ち明けられた。

「樋口さんの子どもが欲しい。籍を入れなくていい。認知しなくてもいい。お金もいらない。一切迷惑をかけませんから」

一回目の結婚の失敗に懲りていたはずが、「そこまで言うなら」と了承した。

しかし気がついたときには、僕は京都に引っ越し、松竹芸能の要請により入籍を済ませ、家で赤ん坊を育てていた。気が付いたら「ツイ婚」(ツイッター婚)していた。
ふさこは仕事のため、週に何度か家を空けた。

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泣きわめく赤ん坊、かずふみ(師匠・直木賞作家の白石一文から名付けた)を朝まであやし続けた。

妻の異変

本職は作家からイクメンに変わった。

そして出産後、もともとおかしいところのあった妻の言動はエキセントリックを極めた。

僕が育児を放棄し、女性と遊び歩いたり、飲んで家に帰ってこなかったり、ギャンブル狂で暴力を振るうとかならわかる。

が、ふさこは僕の些細な言動の端々をあげつらい、キレにキレまくった。

「死んでやる!飛び降りる!手首を切り落としてやる!」
「親権もいらない!かずふみともう会わなくてもいい!〝結婚して子どももいて幸せだね〟って言われるけどそんなことない!消えて無くなりたい!」

歩いて20分の第3希望の保育園に入れてからも事態は思うようには好転しなかった。

最低でも週に一回、酷いときは連日、ふさこのアングリーは爆発した。

大袈裟ではなく、ふさこが叫ぶと窓ガラスががたがたと震えた。近隣住民に通報されなかったのが奇跡だ。

ベランダやマンションの外に裸足で飛び出すふさこを羽交い締めして引き止めたことも一度や二度ではない。翌日は決まって筋肉痛。

僕もまたノイローゼになり、当然仕事に支障を来たし、長い集中力を要する長編執筆はできなくなった。

追い込まれた僕は、1万人以上フォロワーがいたツイッターをやめ、一度は作家引退を宣言した。完全にあたまがおかしくなっていた。

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世間から物笑いになり、友人や編集者は呆れて去っていった。

ふさこのせいではない。自業自得だ。ふさこと出会うまでの僕は傲慢だった。

作家ならたいていのワガママを言ってもいい。そう思っていた。

しかし僕のちんけな矜持など、生まれたての生き物の前には通用しない。どんな時間もおかまいなしにミルクとオムツの取り替えを要求し、見返りに天使のような笑顔を振る舞う子どもに、僕はそれまでの生き方を矯正された。