出生人口が前年比200万人減の衝撃…もう止まらない中国の少子化

一人っ子政策撤廃は完全な空振りだった
北村 豊 プロフィール

サンプル分析・浙江省温州市

それはさておき、(3)に述べられているように、「2018年は中国の人口にとって歴史的な折り返し点」なのか。その一端を物語ると思われる浙江省温州市における出生人口の状況が複数の中国メディアによって報じられた。それらを取りまとめてみる。

【1】1月14日、浙江省で第2位の人口(2017年末で825万人)を擁する温州市の“婦幼保健所(母子保健所)”が2018年の温州市の出生人口を発表した。2018年における温州市の総出生人口は9万6903人で、2017年の11万4985人より15.7%減少した。温州市の出生人口は、2012年に14万4988人で過去最高に達した後で減少に転じ、2013年に13万3825人となった。

2014年に“単独両孩”が実施されると減少幅は縮小して12万3424人となったが、2015年も減少は止まらず11万5453人となった。2016年は1月1日から“全面二孩政策(全面的2人っ子政策)”が実施されたが出生人口の減少は続いて11万1704人となり、2017年になって漸く増大に転じて11万4985人となったが、2018年にはまたしても大幅に減少し、過去10年間で初めて10万人を下回ったのだった。
【2】温州市の出生人口の中で“二胎(2人目の子供)”の出産比率は、2017年に38.53%であったものが、2018年には55.92%に急上昇し、出生人口の過半数を占めた。2018年に温州市で分娩した産婦は9万5638人だったが、その内訳は、20~29歳が5万5384人で57.91%、30~35歳が2万7403人で28.65%、36歳以上が1万258人で10.73%をそれぞれ占めた。
【3】温州市母子保健所の責任者が分析したところによれば、出生人数が急激に下降したのは出産適齢女性の減少が主要な原因で、とりわけ20~29歳の出産旺盛期にある出産適齢女性が減少していることにあり、“婚育年齢(結婚・出産年齢)”の遅れ、不妊比率の上昇、人口妊娠中絶の大幅増加なども出生人口の減少に一定程度の影響を与えているのだという。

実際に、20~29歳の出産適齢女性が温州市から大量に流出していることは事実だという。
【4】温州市は中国で最も裕福な地方の1つで、“多子多福(子が多ければ幸福も多い)”という伝統的観念の下で、1人っ子政策に違反しても子供を多く生むという傾向が強かった。2008年に国営通信社の「新華社」が報じたところによれば、当時温州市の総人口は浙江省の6分の1を占めていたが、1人っ子政策に違反した違法出生数は全省の2分の1前後であり、特に金持ちや著名人による違法な“超生(超過出産)”が突出していた。

浙江省内各市の出生率を2007年から2017年まで表にしたデータを見ると、11年間の平均出生率は温州市が首位の13.05‰で、11.61‰で第2位の台州市を大きく引き離していた。なお、省都の杭州市は全11市中の第7位で9.50‰であった。
【5】従来“多子多福”を信条として来た温州市で、2018年に出生人口が急減し、しかも2人目の子供は出産比率が55.92%に急増したことは、異常を知らせる信号であると言える。すなわち、“70后(1970年代生まれ)”や“80后(1980年代生まれ)”の人々はすでに住宅を保有して生活が安定しているから、解禁された2人目の子供の出産に踏み切ったが、“85后(1985~1989年生まれ)”や“90后(1990年代生まれ)”の出産適齢期にある世代の多くが子供の出産意欲を欠いているのである。

その理由は不動産価格が高くて住宅を買えないし、借家の家賃も高いのに、どこに子供を出産する勇気があるかというものである。これは正に『孟子』にある「“是不為也、非不能也(やらないのであって、できないわけではない)”」に通じる状況である。
【6】米国の不動産会社“Zillow”の研究によれば、「住宅価格が10%上昇する毎に、出生率は1.5%下降する」のだというが、それは温州市でも同じ現象を引き起こしている可能性が高い。そればかりか、子供を1人育てる費用は馬鹿にならない。

出産から成人するまでに要する費用は少なくとも104.5万元(約1750万円)が必要であり、その内訳は、(a)妊娠期:1.9万元、(b)嬰児期:8.2万元、(c)幼稚園期:11.4万元、(d)小学期:27万元(約450万円)、(e)中学期:15.3万元(約250万円)。(f)高校期:17.1万元(約280万円)、(g)大学期:23.6万元(390万円)である。
 

経済成長という足かせ

要するに、収入に比べて高額な住宅すら購入できていないのに、最低でも1人当たり104.5万元の出費が必要となる子供を産むという決断を若い夫婦ができるのかという問題なのだが、それ以外にも彼らには無視できない大きな要因がある。それは彼らが扶養することを余儀なくされる夫婦双方の両親や祖父母たちの存在が大きく影を落としているのだ。

上述した寧吉喆の報告によれば、2018年末における60歳以上の人口は2億4949万人で総人口にしめる比率は17.9%であった。2017年末における数字は2億4090万人で、比率は17.3%であったから、1年間で859万人増えた計算になる。

「全国老齢工作委員会」常務副主任の王建軍によれば、60歳以上の人口は今後も継続的に上昇を続け、2025年には3億人に達し総人口の5分の1、2033年には4億人に達して総人口の4分の1、2050年前後には頂点へ達して4億8700万人で総人口の3分の1を占めるという。

また、予測によれば、中国で老人の年金、医療、介護などの投じる費用がGDPに占める比率は、2015年の7.33%から2050年には26.24%に達するという。こうなると国家が正常に機能しなくなる可能性が高い。

2019年1月3日、中国社会科学院「人口・労働研究所」は『中国人口・労働問題報告No.19』を発表したが、同書の中には「もし中国の出生率が低水準のままで持続されるなら、人口のマイナス成長は2027年より早い段階で出現するだろう」との指摘があり、中国の人口問題はいよいよ深刻さを増すと同時に現実味を帯びて来ている。

2年連続で出生率が低下したことで、出生人口の大幅な増大を意図して2016年1月1日から始まった「全面的2人っ子政策」は空振りに終わったことが明白になった。

これによって中国の少子化傾向はますます本格化することになるが、いかな中国共産党による独裁国家でも国民に出産を強制することはできない道理で、どのように出産を奨励するか、興味は尽きない。

少子化、老齢化は共に日本にも当てはまる課題だが、中国の規模、程度、速度は全てが日本を遥かに上回るだけでなく、世界的にも前例がなく、今後の進展がどうなるのか目が離せない。

1949年10月1日に成立した中華人民共和国は69年の歴史を有するが、果たしてその歴史を100年まで永々と続けることができるのか、全ては少子化と老齢化の問題をどれだけ上手く対処できるかにかかっているように思われるが、読者はどう考えられるだろうか。