動脈硬化を予防するエビデンス

ストレッチと動脈硬化に関するエビデンス(科学的根拠)を挙げよう。

アメリカ・バージニア大学などの研究グループが行った最新の実験がある(Effects of Static Stretching Exercise on Lumbar Flexibility and Central Arterial Stiffness.J.Cardiovasc Nurs 2018 Jul/Aug;33(4):322-328)。

この実験では、30人の女性に30分間のストレッチをしてもらい、前後で動脈硬化と関連する脈派伝播速度(PWV)を計測した。

血管が硬いほど、血管壁が厚いほど、そして血管の太さが細いほど、脈派伝播速度は速くなり、動脈硬化の進み具合を示す。この実験ではストレッチを1回行うだけで、脈派伝播速度が減少し、動脈硬化にブレーキがかかることが明らかになった。

また過去の研究から、動脈硬化には、腰部の柔軟性が関わると示唆されているが(腹部を通る動脈が圧迫されて機能が低下するからだろう)、この実験では腰部の柔軟性の回復も見受けられた。さらにその柔軟性の回復度が高かった人ほど、ストレッチ後の脈派伝播速度の減少が大きく、動脈硬化の予防に利すると考えられる。

過去に日本の国立健康・栄養研究所などが行った研究でも、同様の結果が出ている。成人526人(男性178人、女性348人)を調べたところ、どの年齢層でも柔軟性が低くて体が硬くなっている人ほど、脈派伝播速度が速くて動脈硬化が起こっていることがわかった(Poor trunk flexibility is associated with arterial stiffening.Am J Physiol Heart Circ Physiol.2009)。

これもストレッチによる柔軟性の回復が、動脈硬化予防に効果的であることを示している。

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ストレッチは筋肉の衰えを抑える

ストレッチの効果として血管死に続く第二に考えられるのは、筋肉に関するものだ。

30代をすぎて運動不足の生活を送っていると、筋肉は年に0.5〜1.0%の割合で減少すると言われている。

筋肉は抵抗をかけて動かすと発達し、抵抗をかけずに動かさないとたちまち衰える。骨折をしてギプスで固定し、しばらく動かさないと筋肉は細くなる。運動不足でもこれと似た現象が起こり、動かさない筋肉は衰える一方なのだ。

この筋肉量の減少とそれによる筋力の低下は、あらゆる面で健康リスクを高めて、高齢者の医療費コストを押し上げる怖れがある。

高齢者が恐れるべきは「フレイル」と呼ばれるもの。これは健康状態と要介護の中間であり、心身が虚弱な状態を指す。このフレイルの一因は筋肉の弱体化にある。

筋量、筋力、身体能力が低下する「サルコペニア」、筋肉や関節といった移動に関わる運動器の衰えにより、移動機能が低下して要介護になるリスクが高くなる「ロコモティブシンドローム」はフレイルをもたらすが、サルコペニアもロコモティブシンドロームも筋肉の衰えに端を発するケースが多い。

フレイルを放置すると要介護に進みやすくなる。要介護になると、医療費に加えて介護費の出費がかさむようになる。

筋肉が衰えないように維持するには、筋トレが有効である。しかし筋トレが行えない高齢者では、ストレッチをするだけでも衰えた筋肉を改善する効果が期待できるかもしれない。

エビデンスを示そう。

筋トレを行って筋肉が発達しても、トレーニングをやめると筋肉の成長は止まり、やがて元に戻る。

ところが16週間の脚の筋トレを行って筋肉を成長させた後、トレーニングを中止し、ストレッチをする脚としない脚の太さを比較した研究では、ストレッチをしている脚では筋肉の減量が抑えられた(『ディトレーニング中のストレッチングが筋量に及ぼす影響』笠原政志、山本利春、川原貴、体力科学59巻(2010)5号)。

この研究を踏まえると、筋トレには及ばないにしても、ストレッチである程度は高齢者の筋肉の衰えが防げる可能性がある。