1970年代テレビドラマ「いまじゃ考えられない」驚きのシーン

日本のおふくろ、本物の刑事がいた
週刊現代 プロフィール

佐分利信しかできない演技

日本の家族をテーマにしたドラマで忘れてはいけないのが、向田邦子作品。なかでも『阿修羅のごとく』は傑作だった。

厳格に見えて、こっそり浮気をしている父親役の佐分利信の存在感がバツグン。佐分利が演じる父親は、妻(大路三千緒)が浮気に感づいていないと思い込んで、愛人が生んだ隠し子にプレゼントする予定のオモチャのミニカーを、自宅の居間に置いたままにする。

「でんでんむしむしかたつむり」

そう歌っていた妻は、そのミニカーを見て阿修羅の表情に豹変。ミニカーを襖に投げつけ、見事に突き刺さる。

「その後も襖の傷跡が随所に映し出される。ですが、それ以上には語られない。表面は穏やかな家族だが、内側では地殻変動が慎ましやかな男女にも起こっている。強烈なメッセージが放たれた名シーンでした」(前出・藤井氏)

父親は最初から最後まで変わらず堂々としているが、愛人に振られ、妻に先立たれる。

「ラストはどこか哀れを誘う。この演じ分けが絶妙で、佐分利信以外にこんな役はできないでしょうね」(前出・古崎氏)

作中で佐分利が何度もつぶやくセリフがある。

「……10年たったら、笑い話だ」

このフレーズに重みを持たせる演技は見事だ。

 

ドラマファンの間で評価が高いのが、『岸辺のアルバム』。平均視聴率は15%ほどだったが、衝撃的な内容はいまも色褪せない。

「セックスは月に何回くらいですか?」

国民意識調査を名乗るイタズラ電話をきっかけに、八千草薫が演じる貞淑な妻が、年下の青年(竹脇無我)とラブホテルに行くことになる。

夫(杉浦直樹)は、商社マンだが、会社は倒産寸前。長女(中田喜子)は、交際していたアメリカ人の友人に乱暴されたあげくに妊娠中絶。

東京・狛江市の建売住宅に住む平凡な家庭が徐々に壊れていく。最終回では、大雨による洪水で自宅が危険にさらされ、夫はこう叫ぶ。

「どんな思いでこの家を買ったと思っているんだ」

家が濁流に飲み込まれる寸前、長男(国広富之)は家族のアルバムだけをなんとか持ち出し、最後はわずかに再出発の希望の光が見える。

コラムニストの泉麻人氏はこう振り返る。

「台風の洪水によって自宅が流されるという実際に起こった出来事に、家族の静かな崩壊が重ね合わされています。

冒頭のタイトルバックの映像は、小田急線の和泉多摩川の鉄橋の空撮から始まっています。そこに、ジャニス・イアンの『ウィル・ユー・ダンス』という洒落た洋楽が重なる。映画的なオープニングが印象的でした。

山田太一作品の特徴は地理的なディテールがしっかりしているところ。八千草薫がラブホテルに入るシーンを当時の住宅地図で照らし合わせると、実際に渋谷の桜丘にあったホテルがそのままの名前で使われていました。モーレツ世代の杉浦直樹のセリフにも実にリアリティがありました」